昨年末に訪中した福田康夫は、現地で記者団に、1月の通常国会召集前にも内閣改造を断行する考えを示した。現閣僚の多くは安倍内閣からそのまま。何かと反りの合わない官房長官の町村信孝を唯一の腹心である衛藤征士郎に差し替え、パフォーマンス過剰の内閣府特命担当相・渡辺喜美を更迭、防衛省汚職に関連してイメージの悪い額賀福志郎も替えるはずだった。清新で福田色の強い内閣をつくれば、「何をしたいか分からない内閣」というマスコミ批判が消え、支持率回復につながる可能性もあった。
だが福田は、深く政治を考えたことがない。自分の考えで内閣改造ができると思ったのが大間違い。中国で丁重に扱われ「自分は総理大臣」という思いをかみしめた余勢で改造に踏み出そうとしたのだが、いざ作業を始めると障害が次々と出た。まず個別の人選では官房長官に衛藤を使う案に出身派閥の町村派が猛反対。改造賛成だったはずの元首相・森喜朗までが「党三役にするならいいが、ここで町村を派閥に返せば派内がぎくしゃくする」と待ったをかけた。さらに閣僚登用予定者の身体検査をする能力が福田の秘書団にないことが明らかとなった。
決定的だったのは、この時期に内閣改造をやれば前号で指摘した「小沢一郎との大連立」を蒸し返すのが当分無理になると複数の有力者から指摘されたこと。まさか1、2カ月で閣僚のクビを切り民主党の入閣枠をつくるわけにはいかない。福田は改造断行を諦めるしかなかった。
1月11日、インド洋で米軍に給油を行うテロ新法が衆院の3分の2以上による再可決で成立した。民主党は参院に福田に対する問責決議案を提出して全面対決する方針を転換、18日招集の通常国会でじっくり追い詰めることにした。「問責決議案は自爆テロに等しい。それで審議拒否なら国民の批判は民主党に向かうだろう」と小泉純一郎が指摘したとおりだからだ。時間が経てば福田の支持率は落ちる。民主党としてはここで勝負に出る必要などないのだ。
通常国会の勝負どころは歳入関連法案をどう成立させるか。成立が4月以降にずれこめば予算執行に影響が出る。特に問題なのは揮発油税の暫定税率継続を定めた租税特別措置法改正案。3月までに成立しなければガソリン税が1リットルあたり25円下がり国民は喜ぶが、歳入が2兆6000億円減る。4月に入りいったん値下げされた後で元に戻せば国民の反発は必至。かといって予算案成立前の1月中に衆院での審議を前倒し強行採決すれば、再度3分の2条項を使うことになる。福田は首相としての決断を迫られるが、「無理をしないのが政治手法」(ベテラン政治記者)の福田に大きな決断はできそうもない。(後略)