記事(一部抜粋):2008年1月掲載

連 載

【狙われるシルバー世代】山岡俊介

「仮想空間で大儲け」を謳う「日本版セカンドライフ」の怪しさ   

 基本的なパソコン操作のできる中高年層を対象に、ある「仮想空間」への入会の働きが熱心になされているのをご存じだろうか。実際、定年間際や定年を迎えて間もない人の中には、勧誘に乗って入会した者が少なくないという。
 「仮想空間」といえば、すぐに思い浮かぶのは、米サンフランシスコのベンチャー企業「リンデンラボ」社が2003年に始めた「セカンドライフ」だろう。しかし日本の中高年を熱心に勧誘しているのは、セカンドライフの日本版を謳った「Xing WORLD」を運営する「BIZインターナショナル」(東京都千代田区)なる業者。設立は05年12月だ。
(中略)
 BIZ社が入会説明の際に配ったDVDを筆者は入手しているが、そこにはこんな書き込みが見られる。
 「初期から土地を購入した方がお得」 「今までの仮想空間(の土地)は売却済」、「(しかしXing WORLDなら)ご安心下さい」
 そして「一般ユーザーの申し込みは2009年6月(以前は春といっていた)からですが、あなたなら、いま37万8000円支払えば先行して入会させてあげましょう」とも謳っている。
 すでに、この仮想空間では東京の渋谷区など3区の不動産は大人気で売り切れてしまっているそうで、08年2月からは品川区、港区など他の人気区も売り出すと、射幸心を煽っている(各区画の3D映像を作成するのはたいへんなコストと時間がかかるため、順次売り出しとしている)。
 つい最近、入会したという、某流通企業の元中間管理職はこう打ち明ける。
「1区画4000円〜20万円という説明を受けました。それがあっという間に何倍にも値上がりするというのです。短期間に10万人を入会させるので、やがて土地の奪い合いになると。現実世界の麻布や白金の土地を買うのは無理でも、この程度の値段なら購入できるし、高く転売できれば、老後資金の不足分を補えるかもしれません」
 同じく最近入会したという別の60代男性はいう。
 「蓄財も魅力だが、会員同士でコミュニケーションができるのも魅力。若い女性会員とも付き合えるかもしれないしね。セカンドライフも悪くないんだろうけど、英語会員中心で、日本人は数万人程度でしょう。私は英語がからっきしダメだから」
 入会者の夢を壊すようで申し訳ないが、筆者がなぜ、BIZ社が怪しいと見ているか説明しよう。
 まず、BIZ社の所在地。千代田区丸の内のとあるビルの八階が本社となっているが、実はこの階はレンタルオフィスである。
 説明会で、前出DVDの制作だけで80億円をかけていると言っているが、それほどの投資ができる企業がレンタルオフィスというのは不自然だ。資金に乏しく、また逃げる場合に手っ取り早いからではないのか。
 ある映像デザインのプロがこう証言をする。
「このDVDの映像、半分はセカンドライフがいかにすごいかという既存のテレビ番組の録画です。そして肝心の自作とされる渋谷駅前などの3D映像にしても、シリコングラフィックスという米国のコンピュータ会社が販売している映像を流用しているにすぎない。このソフトは東京1区分で570万円と高額だが、かといって80億円もするわけがない。もっとも、こんなソフトが販売されていることは一般にはほとんど知られていないし、コンピュータ事情に疎い中高年なら、なおさらでしょう。それよりも、自社制作していない、すなわち技術力がないというのは、仮想空間を運営する企業としては致命的です。セカンドライフをまねた詐欺商法と思わざるを得ません」
 説明会で配布されたパンフレットを見ると、その収入形態がマルチ商法(連鎖販売取引)形式になっていることに気づく。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】