記事(一部抜粋):2008年1月掲載

経 済

【企業研究】ヤマダ電機

安売りのためには手段選ばず

(前略)群馬県前橋市にあるヤマダ本社では、週に2度、メーカーとの商談日が設定されており、当日はメーカー担当者のクルマがひっきりなしに駐車場を出入りする。
 商談を終えて本社から出てくる担当者たちの顔色は総じて暗い。ヤマダから厳しい条件を求められるからだ。仮にそれが無理な要求であろうとも、メーカー側は無下に断るわけにはいかない。ほとんどのメーカーにとってヤマダは最大の取引先。結局はヤマダの要求に近い線で落ち着くのが常である。
 ヤマダが求めるのは卸価格の引き下げやリベートの増額だけではない。メーカーからの不満でとくに多いのは、公取委も問題にした「ヘルパー問題」だ。
 メーカーは、自社製品の販促のためにヘルパーと呼ばれる販売支援スタッフを、ヤマダに限らず量販店各社に派遣する慣習がある。ヘルパーの人件費は全額メーカーが負担しており、そのためヘルパーは派遣元のメーカーの商品についてのみ販売するというのが基本だ。
 ところが派遣が常態化するとともに、家電量販店はヘルパーに、派遣元以外の商品の販売を求めるケースが増えてきた。とりわけ露骨なのがヤマダ。ヘルパーに自社の従業員と同じような仕事を要求、休憩時間もヤマダの都合で決め、ヤマダが発行するポイントカードの会員獲得なども指示していたという。
 会社ぐるみで、ヘルパーに直接、業務を指示し、管理までしていた疑いが濃厚である。
 これはキヤノンなどで問題になった「請負偽装」にも通じる構造的な問題だ。請負偽装では、請負業者のスタッフに対し、キヤノンなどメーカーの社員が直接業務の指示・命令をしていたことが法令違反とされた。
 それでも請負偽装の場合、メーカーは請負業者に代金(社員に払うよりもだいぶ少ない)を支払っていた。ところがヤマダの場合は、ヘルパーにはビタ一文払っていない。こちらのほうがよほど質が悪いといえよう。
 大阪労働局に法令違反を通告された大阪の旗艦店「ラビワン」では、500名近い店舗スタッフのうち、200名ほどがヘルパーだったという情報もある。
 公取委が店舗だけでなく本社にまで検査に入ったのは、この「ヘルパー偽装」が、メーカーからの自発的なサービスの提供というより、優越的地位にあるヤマダ本社が、メーカーに強く働きかけた結果なされたものではないかと疑ったからにほかならない。
 このようにヤマダの「強さ」の秘密は、単に強大なバイイングパワーによる格安な仕入れにとどまらず、人件費のかからないヘルパーを十二分に活用する「究極のローコスト経営」にもあったのである。
 実際、ヤマダの経営効率のよさは数字に如実に表れている。売上高経常利益率はは約五%と、エディオン(2.5%)、ビックカメラ(2.6%)、ケーズホールディングス(3.2%)を大きく上回る。かつてヤマダと業界の覇権を激しく争ったコジマやベスト電器に至っては1%に満たない。
(中略)上州戦争を通じて山田社長は「競争に勝ち抜く最大のポイントは価格である」という認識を新たにした。安売りに徹するには経営を極限まで効率化する必要がある。ヤマダがそのために選んだのは、前述したようなバイイングパワーの最大限の活用と、本部に権限を集中し、上意下達で販売現場を細かく管理する中央集権の仕組みをつくることだった。
 ヤマダは家電量販店の中でもっとも早くPOSシステムを導入したことで知られている。POSといえば有名なのはコンビニのセブン‐イレブンのシステムだが、要するに、今現在どこで何が売れているかが瞬時に把握できるシステムのことだ。つまり「売れ筋」「死に筋」の峻別が即座に行え、機動的な仕入れや販売戦略に生かすことができる。
 どのようなレイアウトにしたら売れるのか、といった仮説の検証にも役立つシステムだといわれているが、その反面、売れ筋と判断された商品以外は排除され、画一的な売り場になりがちだという意見もある。
 いずれにしても、このPOSシステムがヤマダの効率経営に一定の成果をもたらしているのは確かだろう。
 商品の管理を徹底するヤマダは、その一方で、社員の管理にも人一倍気を使う。例えばヤマダの各店舗には、壁や天井に監視カメラがいつも設置されている。万引きなどの犯罪被害を防止するのが狙いであることはいうまでもないが、同時に店長や店員を管理する役割も担っている。カメラに映る映像は前橋の本部に送られ、社員がきちんと接客しているか、サボっていないかが厳しくチェックされる。サボっているとみなされれば、即座に電話で叱責されることもあるという。おそらく多くの社員は息の詰まる思いだろう。(後略)

 

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