長年政治を観察してきた目で今の国会の状況をみると、「一路衆院解散へ」である。しかし首相の福田康夫は小泉純一郎のような勝負師ではない。できれば波乱は避けたいタイプ。解散の決断はできそうもない。
政府与党は1月15日まで国会を1カ月再延長した。防衛省汚職に足をとられて参院での審議が遅々として進まない新テロ法案を成立させるためだ。福田は11月中旬の訪米で大統領のブッシュにインド洋での自衛艦による給油再開を約束した。実現しなければ米国に見放され、財界からも軽侮され、自民党内に福田降ろしの火の手が上がりかねない。
だが民主党に、法案の採決に応じる気配はない。1月11日が衆院から参院に法案が送付されて60日目。政府与党としては憲法の規定(みなし否決)通り、翌12日からの3連休が明ける15日に、衆院の3分の2以上の賛成で法案を再可決、成立させる腹積もりだ。臨時国会はその日が最終日で、民主党など野党は参院に首相・福田の問責決議案を提出、応戦することになるだろう。
問責決議が可決されても、それ自体に法的な拘束力はない。問題は民主党が「衆院での再可決は直近の参院選で示された民意の否定だ」(国対委員長・山岡賢次)と理屈をこねることだ。1月18日には来年度予算案を審議する通常国会が招集される。しかし国民の意思を否定した首相が提出する予算案の審議に、民主党は応じるわけにはいかないので、冒頭から寝る(審議拒否)。国会空転の長期化は、普通なら衆院解散の決定的な理由になる。
小泉なら、審議拒否を続ける野党を悪者にして解散に打って出るに違いない。それで衆院選に勝てば、政権は国民の信任を得たことになるし、衆院選で勝っても変わらない参院の野党優位は、民主党の分裂を策して切り崩す。前原誠司や野田佳彦ら反小沢の民主党リーダーは連携の呼びかけを無視はしまい。幹事長の鳩山由紀夫や代表代行の菅直人らも、大嫌いな小沢が政権を取れないとはっきりすれば袂を分かつのは間違いない。いや、小沢自身が党を割って自民党と連立しようとするかもしれない。新党には「国民生活のために衆参逆転を解消し国会を正常化する」という大義名分もある。
しかし福田には、それをやるだけの政治的力量と決断力が欠けている。
連立を組む公明党も強く解散に反対している。前途不透明な政局に突入して公明党の存在感が薄れるのを警戒、国対委員長の漆原良夫は国会再延長にあたって、自民党に「民主党が通常国会でいったん寝ても、一定期間で起きると約束させてから最決議を」と無理な注文をつけた。
福田は弱気の虫にとりつかれている。12月の第二週に入って、5000万件の不明年金の照合ができないのは公約違反と野党に追及された。解散すれば年金問題で惨敗した参院選の二の舞いになると恐れている。さらに、防衛省汚職が年明けに自民党議員に拡大するのではと恐れてもいる。
衆院解散をせずに国会の膠着的空転を打開するには、民主党と妥協するしかない。方法は1つ。大連立の蒸し返しだ。(後略)