記事(一部抜粋):2007年12月掲載

連 載

【中国ビジネス最前線】五百騎駿

暴動の引き金は「株価下落」と「一人っ子政策」の失敗   

 中国が市場経済に移行したばかりの頃、学者、専門家の中に、中国の成功を予想する者は少なかった。中には、「格差」に象徴される矛盾がやがて引き金となって共産党政府が破綻するとみる者もいた。だが中国は目覚しい経済成長を遂げ、2007年には外貨保有高が日本を超して世界最大になった。いまや世界が「元高に移行せよ」と大合唱するほどだ。
 一時盛り上がった中国脅威論すら影を潜め、逆に世界各国は中国経済に依存する姿勢さえ示し始めた。繁栄する沿海部と貧しさに置かれたままの内陸部との「格差」さえ、新しい経済成長の要因と見なされるようになり、いつの間にか中国共産党崩壊論はほとんど語られなくなった。
 こののまま中国は、本当に発展を続けていくのだろうか。
 東亜同文書院時代から中国研究一筋のある学者が「中国政府を破綻に追い込むような暴動が必ず起きる。それも早い時期に意外な形で崩壊現象が始まる。原因は3つある」と言い残して、この夏の真っ盛りに逝ってしまった。
 彼に言わせると「中国共産党の崩壊は経済格差が決定打になるのではない。共産党が改革のために選択した『2つの政策と一つの伝統』が破綻を招くのだ」という。
 2つの政策のうちの1つは「一人っ子政策」だ。中国は190年代、すべての国民が食べられる社会を構築するためにと、人口抑制の乗り出し、世界史に例のない「夫婦が育てられる子どもは1人だけ」という政策を導入した。
 中国の農村地域に行ったことのある人は「棄嬰是犯罪」というスローガンが書かれた古びた看板を目にした憶えがあるはずだ。これは、1人しか子どもを持てないのなら、将来嫁に出ていく女の子より、跡継ぎとなる男児を育てようと、生まれた女の子を間引きする夫婦が多かったということの証である。
 現在では「棄嬰是犯罪」ではなく、「正規の病院で出産しよう」の看板が目に付くが、これは、女の子の間引きが少なくなったことを意味しているわけではない。スローガンが変わっても、間引きは少しも減ってはいない。減るどころか、女の子の70%が「人流」(人工流産)の悲劇に見舞われている。
 生まれた子を間引きして闇に捨てるのに比べ、「人流」は出産前の処置なので罪の意識が軽くなる。だから簡単に女の子を闇に葬る。政府は妊娠中に性別を判断して女の子を中絶する闇診療所の摘発に力を入れているが、さしたる効果は出ていない。
 出生比率の全国平均は女子100に対して男子117であり、内陸部では100対122にもなる。中国は生涯、結婚できない男が2020年には3000〜5000万人に達すると推定されるほど歪な社会になっているのだ。
 そして、あぶれた男たちは連日、新聞の地方記事をにぎわす性犯罪を引き起こしている。もはや完全な暴動予備軍である。
 村ぐるみで女性を誘拐し、強姦を繰り返して逃げる意欲をなくさせ、農家に嫁として売る。あるいは売春婦として売り飛ばす。売られてきた嫁が逃げないように強引に足の骨を折る。拉致され、逃げ帰った娘を世間体を気にする両親が追い返す――。90〜九五年の間に当局に救出された女性は8万5000人以上。救出されない女性はその数十倍はいたと推定されるほど、中国社会の病巣は深刻である。
 極端な男女比の差は、都会の生活にも影響を及ぼしている。上海の女性は料理、洗濯、掃除をしない。家庭の仕事は全部、夫任せとうケースは決して少なくない。それが個人の家庭レベルの話ならいい。しかし女性たちは、夫にだけでなく、相手が公安だろうが役所だろうがお構いなしである。相手をねじり倒すようにまくし立て、言い分を押し通してしまう。
 貧富の格差は働くことで克服できるという幻想は持てる。しかし、男と女の差は政策では解決できない。5000万人の不満は大暴動の引き金に十分なり得るというのだ。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】