記事(一部抜粋):2007年12月掲載

社会・文化

手負いの守屋・宮崎が反撃に出る

「山田洋行事件」政界ルートの行方

「事件はつくるものだ」――こう本音を漏らす捜査検事や警察官僚は少なくない。
 犯罪があって捜査が始まるという常識から考えると、「事件をつくる」という発想は恐い。「検察ファッショ」「警察国家」にもつながりかねないが、権力を握る中央政界の政治家や高級官僚を対象にした事件は、狙いを定めた捜査によって着手せざるを得ない。
「政治家や官僚による地位を利用した『口利き』は、日常茶飯に行われており、そこに金銭・物品のやりとりがあり、職務権限をもっていれば明白な贈収賄だが、みんな過去の事件の学習効果で『受領』の形を残さない。それでは権力者の罪が横行するばかりだから、『一罰百戒』を狙って仕掛けることがある」(検察OB)
 山田洋行事件が順調な滑り出しを見せている。宮崎元伸元専務(69歳)の業務上横領容疑での逮捕をきっかけに、ゴルフを五年で百数十回という異常な親しさを見せつけた守屋武昌・前防衛事務次官(63歳)に手を伸ばし、さらに「政界ルート」を見据えている。
 この捜査は検察の仕掛けで始まった。
 きっかけは山田洋行の内紛だった。オーナーの山田正志氏(83歳)が、バブル期の精算を迫られて株式の売却を画策。それに反発したのが、身分は雇われの専務ながら1993年に代表権を取得してからは、実質的に山田洋行を支配した宮崎元専務である。
 宮崎元専務による会社買収など様々な案が検討されたが、すべて不調に終わって宮崎元専務は退社、昨年9月に日本ミライズを設立、山田洋行の中堅社員30名を、米GE(ゼネラル・エレクトリック)製エンジンの代理店権といった商権とともに移籍させた。
「飼い犬に手を咬まれた!」と、烈火の如く怒った山田オーナーは、10億円の損害賠償請求訴訟を起こすとともに、高検検事長を経験した大物ヤメ検を雇い、刑事告訴も検討する。結局、告訴には至らなかったが、「山田洋行の宮崎元伸」といえば、防衛商戦に何度も登場、守屋前次官と親しいことで有名な商社マンであり、検察にもその名は知られていた。
 防衛調達の闇に迫れるかも知れない。宮崎を起点に守屋、さらにその先の政治家を狙えるだろう――。
 検察がそう結論を出すのに時間はかからなかった。今春から東京地検特捜部が内偵を始め、松岡利勝元農相をターゲットにした林道談合事件が、松岡元農相の自殺によって幕を閉じると、山田洋行捜査が本格化する。
 オーナーの意地と怒りが絡むだけに、山田洋行サイドは捜査に全面協力。特別背任、業務上横領、文書偽造など宮崎元専務を会社犯罪で追い込む材料は限りなく出てきた。また、防衛官僚を接待漬けにする「宮崎戦略」にハマったのが守屋前次官で、偽名を使ってまでゴルフを続けてきたのだから悪質で、贈収賄への道も開けた。
 ここまでは検察の見立て通りである。難しいのはこれからの政治家捜査だが、当面、問題になるのは守屋前次官が日本ミライズへの代理店移行を強く推奨したというCX(次期輸送機)のGE製エンジンについてである。設立されたばかりの日本ミライズには、大規模装備品の入札資格がなかった。守屋前次官が、「番外商社」による代理店取得にこだわったのは、宮崎元専務との接待を軸にした長いつきあいによるものだろう。
 では、この守屋疑惑がどう「政界ルート」につながっていくのか。GEが代理店を山田洋行から日本ミライズに替えたとしても「民―民」の話であり、政治家の職務権限には結びつかない。
 むしろ問題となるのは、GE製エンジンの選定に政治家が絡んでいる疑惑である。
「防衛庁がCXの開発に着手したのは2002年で、エンジン選定にはGEを含めて3社が名乗りを上げました。長い選定作業の末、03年8月、GEに決まったのですが、その際、ある有力防衛族議員が選定にかかわる制服組の現場に、『口利き』をした疑いがあります」(検察関係者)
 03年の時点では、山田オーナーによる株の売却話は出ておらず、宮崎元専務が山田洋行の「辣腕商社マン」として幅広く政官界とつきあっていた。
「口利き」したという防衛族議員の名は判然としないが、流出した山田洋行の献金リストは参考になるだろう。02年から06年の5年間に山田洋行は、十数名の政治家に1500万円を超える献金をしている。
 断トツなのは、元空将の田村秀昭参院議員(75歳・今年7月の参院選挙で引退)で、山田洋行は政治資金パーティー券の購入を中心に540万円の献金をしていた。他には毎年50万円の献金だった小沢一郎・民主党代表や額賀福志郎・財務相への220万円が目立つ。それ以外は、万遍なく防衛族議員のパーティ券を引き受けている印象である。(後略)

 

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