記事(一部抜粋):2007年11月掲載

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【中国ビジネス最前線】五百騎駿

再評価される「孔子の教え」儒教は中国を救えるか

 5年に1度開催される共産党大会を終え、胡錦濤政権が環境汚染や格差、汚職など成長の歪みの是正に向かって歩み始めた2007年9月28日、孔子の故郷である中国山東省曲阜市に香港、シンガポール、台湾、日本などから、孔子の教えを大切にする中国系ビジネスマンたちが大挙して集まった。儒教に基づくビジネス社会の建設を目指す「国際儒商会議」に出席するためだ。
 中国はこの100年、近代化と共産党政権樹立の中で、孔子に代表される儒教を「封建主義の道徳」と否定してきた。その一方で、「黒ネコでも白ネコでもネズミを捕るネコがいいネコだ」と、金儲けを奨励し、市場経済を推し進めた。
 その結果、経済は成長したものの、国家の基盤である文化や理念を変形させるほどの弊害をもたらした。そして今、理念なき中国社会の欠陥を補う思想として孔子が再び注目されているのだ。 
 中国政府がどれほど儒教の復活に力を入れているかは、国際儒商会議のメンバーを見れば分かる。
 この会議を主催したのは、山東省曲阜市に基盤をおく「中国曲阜国際儒商連合会」で、中心メンバーは張永謙・中国共産党中央党校長、美英才・国際英才集団董事局主席、曹渓林・中華民族文化促進会副主席、駱承烈・曲阜師範大教授などだが、その陰に控えている人物が半端ではない。
 次期トップに名指しされているのは、胡錦濤国家主席の長男の妻である孔繁森(孔子の子孫にあたる)と、胡錦濤政権を支えてきた宗慶紅の妹。つまり中国政府は、儒教思想の復興に並々ならぬ力を注いでいくことを、人事で示しているのだ。
 それにしても、なぜ儒教の復活なのか。中国に進出して20年になる企業のトップはこう語る。
「中国の指導者は、市場経済で国が豊かになっていくと考えていた。ところが実際には国民はカネ儲けに走り、拝金主義は行くところまで行き着いた。このままではカネが人を差別する奴隷社会になる、中国の将来は危ういと指導者たちも本気で心配し始めたのです」
 在日30年になる中国人の学者はこう嘆く。
「中国人の多くは中国経済が世界を動かし始めたと思っているが、それは錯覚です。ビジネスマンだけでなく、官僚も一般市民も目先の利益に走り、儲けるために賄賂を使って権力と結びつくのは当然と考えている。取引相手や消費者を騙し、法律も平気で破る。社会からは『信義』や『信頼』といった精神文化が消え、中国社会そのものが巨大な闇ビジネスになったような状態です。いくら経済成長を誇っても、5年後に生き残っている企業がどれだけあるか疑問だ」
 外貨保有高1兆4000億ドルに象徴されるように、中国の貿易収支は大幅な黒字で、経済は力強く成長を続けている。しかしその裏側では汚職や経済犯罪が蔓延している。
 03年に処分された行政機関職員は実に1万4231人(死刑も含まれる)と公表されているが、これでも氷山の一角にすぎない。実際はその10倍、もしかすると100倍を超すと推定されるほど、役人の犯罪は常態化している。
 当局は規律懲戒制度の強化に努め、「汚職博物館」まで設けて犯罪内容や判決内容を告知するキャンペーンをしているが、それでも、上海市書記長の陳良宇のように、配偶者や親族名、あるいは匿名で53の預金口座と外貨口座をつくり、総額2億7410万元(約40億円)の資産と、11人の愛人をつくるというような事件が度々起きている。
 官僚の出張や会議が汚職の根源になっているとして、出張費と会議に関する規定を厳しく改めたというニュースが9月末に報じられたが、それを聞いて、筆者自身が体験した官僚による豪勢な宴会を思い出した。(後略)

 

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