記事(一部抜粋):2007年11月掲載

社会・文化

「守屋とその先の政治家」が最終目標

贈収賄事件として立件できるか微妙な情勢

 防衛省は、外部との接触の少ない「閉じられた世界」であり、防衛戦略上の機密も多い。勢い、防衛商戦も外部から遮断されることが多く、防衛省と軍需産業が随意契約を結んで装備を調達するのが一般的だ。
 この防衛戦略に絡む特殊性が、防衛官僚と軍需産業、防衛官僚と軍需産業の窓口となる商社、あるいは軍需産業及び窓口商社と防衛省に「口利き」のできる有力政治家との癒着を生んできた。過去に防衛商戦絡みの事件が多いのはそのためだ。
 10月に入って、防衛省スキャンダルが発覚した。今回の主役は、4年以上も防衛事務次官を務め、「防衛のドン」と呼ばれた守屋武昌氏である。守屋氏は、防衛専門商社の山田洋行で専務を務めた宮崎元伸氏から、二百数十回も「ゴルフ接待」を受けていた。時にはゴルフ好きの夫人も同伴、2000年に「自衛隊員倫理規程」で出入り業者とのゴルフを禁止されてからは、偽名でプレーしていたというから確信犯だ。
 スキャンダル発覚のきっかけは、昨年7月、宮崎氏が山田洋行を退任、同年9月、約30人の中堅幹部を引き抜いて、防衛商社の日本ミライズを立ち上げたことだった。
 山田洋行幹部は、今も怒りが収まらない。
「商社ですから人脈が命。それを持っている営業マンが商社の生命線です。それをわかっているのに宮崎氏は、30名も引き抜いたうえに商権まで持っていった。こんなことが職業倫理上、許されるわけはない。我々はすぐに10億円の損害賠償請求訴訟を起こすとともに、刑事告訴の準備に入りました。それが功を奏して検察捜査が始まった。宮崎さんは山田洋行に功績のあった人ですが、仕方ないことだと思います」
 宮崎氏の、スタッフの引き抜きと商権奪取という行為が、刑事罰に相当するかどうかは、実は捜査着手した東京地検特捜部には関係なかった。特捜部には別な思惑があった。
「守屋は実力者ではあるが脇が甘く、これまでにも何度か業者との癒着が問題になった。一方、宮崎も過剰な接待を指摘されることが多く、その最大の接待相手が守屋だった。2人が結びつく事件が、内紛によって向こうから飛び込んできたのだから、特捜部は『しめた』と思っただろう」(検察関係者)
(中略)防衛産業関係者は等しく、「宮崎氏には人たらしの術がある」という。
「飲食やゴルフの接待は、どの商社もやるんです。でも、それはどこか機械的。宮崎さんの場合は気配りが半端ではない。ゴルフ接待なら家族へのお土産を欠かさないし、夫人がゴルフ好きなら一緒に誘う。お中元やお歳暮はもちろん、誕生日には花、結婚記念日にはお祝いと家族ぐるみのつきあいにもっていく。とても敵いません」
「防衛のドン」とのつきあいは、その集大成だろう。守屋氏とのゴルフは、夫人が一緒にコースを回ることが多かったというし、次女の米国留学の世話は、夫人に頼まれて宮崎氏が会社ぐるみで行っている。空港に出迎えて、州立大学付属の語学学校まで送り、身の回りの用品を買う手伝いをし、ステーキハウスで「歓迎会」まで開いている。
 もともと守屋氏には、接待を断らない脇の甘さがあり、夫人は夫の地位を自分の立場と混同するタイプ。つまり「落ちやすい官僚夫婦」だった。(後略)

 

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