経 済
機能停止に陥った「証券化市場」
「年金基金」は大丈夫なのか【金融ジャーナリスト匿名座談会】
(前略)
B 欧米の銀行に比べると、日本の銀行はサブプライム関連の投資額が少なくて、影響は軽微ということになっているけど、実際はどうなんだろう。
A まあ、当たらずとも遠からずというか、少なくとも銀行本体としては影響は軽微だろう。しかし、海外現地法人などについては分からない。サブプライム関連ビジネスは、日本よりもロンドンで盛んだったから、ロンドンの現地法人や支店でどうなっているかだ。
B 野村証券がサブプライム関連で1000億円台の損失を発生させた。これが最高レベルかな。
C だろうね。野村はニューヨークでサブプライムの証券化ビジネスをやっていて、その在庫に損失が発生したということ。それで結局、住宅ローンの証券化業務からの撤退に追い込まれた。これはかなり深刻な話といえるよ。
A そう、たしかに深刻だ。しかも、これで一件落着となるかどうかは怪しいよ。野村は以前、やはりニューヨークで商業用不動産の証券化ビジネスで巨額の損失を発生させている。合計で7000億円規模だった。そんな大失敗を経験しているにもかかわらず、再び証券化ビジネスで巨額の損失を発生させたのだから、リスク管理の責任が問われるのは避けられない。経営陣の引責辞任に発展してもおかしくはない。
B ニューヨークでは、「野村の撤退は住宅ローンの証券化業務だけではすまない」などと、いろいろ噂が飛び交っているようだね。
A そうらしいね。知人のインベストメントバンカーがいうには、米財務省証券のプライマリーディーラー資格を返上するのではないかという情報も流れたそうだ。
B いま機能不全に陥っているのは住宅ローンの証券化市場だけではない。証券化市場全体が不安定になっている。つまり住宅ローン以外の証券化業務がどうなったのかが注目点だ。さらにいえば、マーケットからの資金調達が円滑にできる状態になっているのかどうか。ニューヨークで本格的な証券業務をしている唯一の日本勢だけに、がんばってもらいたいとは思っているんだが。
C 野村が海外で大変なことになっているのはよく分かるんだけど、日本国内では、財務省や大手銀行がいうようにサブプライム問題の影響は本当に軽微なんだろうか。
A ある準大手証券では、販売用の証券化商品が売れずに在庫でしこっているという情報がある。この証券会社は、販売チームに外国人証券マンを採用し、米国から証券化商品を買い込んだものの、販売段階に入る前にサブプライム問題が発生したため、販売凍結になっているという話だ。
B その話は聞いた。どうも本当らしいね。いったい、どう決算に反映させるんだろう。
C とはいえ、大手銀行クラスに限れば、やはり影響は軽微だろう。問題は地銀や中小金融機関だ。実態がはっきりしないからね。それでも、特別に深刻な事態ということはないんじゃないかな。その辺りの事実関係は、中間決算が発表されれば分かってくる。
A しかし不思議なことがある。米系の投資銀行などは、日本国内で盛んに証券化商品のセールスをしていた。つまり、どこかが買い込んで、巨額の損失を抱えていたとしてもおかしくない。ところが、そういう話が聞こえてこないんだ。
B 銀行は新自己資本比率規制が3月末から導入されて、リスク資産を持ちにくくなっていたので、やはり、投資は少なかったと言える。逆説的に言えば、銀行への新自己資本比率規制のような規制の歯止めがなかったところが買い込んでいる可能性があるということになるね。自分でいうのも何だが、結構いい読みだと思うよ(笑)。
A そう思うよ。たとえば年金基金や共済年金のインハウス(自家)運用などは要注意だ。国内の超低金利で運用が厳しい状態にある中で、「レバレッジの効いた高利回り」とセールスされたら心が動いたとしても無理はない。というか、実際に買い込んでいると思うな。
B その可能性は大だね。現にある業界の幹部は、業態ベースの年金基金の運用内容を最近チェックして、「ウチは投資していなかったのでホッとした」と話していた。年金関連で投資しているという事実があるからこそ、急いで調査したわけだ。
A 年金基金などは企業と違って四半期ごとの決算がない。だから現時点では実態が出てくることはない。来年春の年金決算時に、「実はこんなに投資していました」なんて話が出てくる可能性もありそうだ。
C しかし実態があったとしても隠すんじゃないかな。非上場の証券化商品には時価などないのと同じだから、損失が発生しないような価格で洗い直して、何も問題がないようにみせかけることはいくらでもできる。
A 銀行とは会計基準が違うしね。しかも会計上、非上場の資産については、満期保有を前提とすれば購入簿価で評価していいというルールがある。証券化商品は非上場だ。(後略)