岡山県瀬戸内市――名前の通り瀬戸内海に面し、「日本のエーゲ海」と称される景観を誇る風光明媚な地方都市である。人口は約4万人。産業の中心は農業と漁業。大正浪漫を代表する画家、竹久夢二の生家があることでも知られる。
その瀬戸内市を真ん中にして、両隣に隣接する岡山市、備前市を加えた岡山県南東部が今、コンビニエンスストア・チェーン最大手「セブン‐イレブン・ジャパン」にとって、ある意味「火薬庫」のような存在になりつつある。というのも、同地区でセブン‐イレブン店舗を経営する7人のFC加盟店オーナーが、公然と本部に反旗を翻したからだ。
反旗を翻したといっても、はた目からみると、とりたてて過激なことをしているようには見えない。通常通りに営業し、したがって客の入りも変わらず、品揃えにしても他の地区のセブン‐イレブン店舗と何ら変わるところはない。
ただ1つ違うのは、弁当・総菜などのデイリー商品が、一部については2割引き、3割引き、あるいは半額で販売されていることだ。つまり販売期限が迫った弁当やサンドイッチを、食品スーパーや街のパン屋が通常やっているように、値引きをし、それによって売れ残りをできるかぎり少なくしようと努めているにすぎない。
値引き販売をこの4月から始めた瀬戸内市の加盟店オーナー、Aさんはいう。
「値引き販売を始めてから、おかげ様で店の利益は増えました。また、それまでは売れ残った弁当類を、もったいないと思いながらゴミとして大量に廃棄していましたが、今では、ゴミの量が劇的に減りました。ほぼ10分の1です」
廃棄(=ゴミ)が減り、なおかつ店の利益アップにもつながったというデイリー商品の値引き販売。定価より安く購入できる客にとっても、利益が増える店にとっても、また地球環境にとっても、いいことずくめにみえるが、セブン‐イレブン本部にとってはなぜか許しがたい行為と映ったようだ。Aさんたちが値引き販売を始めたのを察知すると、すぐさまそれを潰しにかかった。
Aさんと同じ時期から値引き販売を始めたBさんがいう。
「本部の店舗指導員がいきなり店にやってきて、『何を勝手なことをしているんだ。契約を解除するぞ』と居丈高に恫喝するのです(その時の様子を録音したテープもあるという)。私は本部社員の部下ではないし、独立した一事業者として、セブン‐イレブンと対等にフランチャイズ契約を結んだつもりです。怒鳴られるいわれはないし、経営者として自分の店の売り上げと利益を少しでも上げようと考えた結果、値引き販売という方法を選択したのです。そもそも自分の店で売る商品の値段を自分で決めて何が悪いんでしょうか。本部と交わした契約書のどこにも、本部が店頭価格を強制できるとは書いてありません」
本部の担当者は連日のように、Aさんらオーナーたちのもとを訪れ、値引き販売をやめるよう説得を繰り返したという。ルール違反だ、値引きをやらない他の店に迷惑がかかる、セブン‐イレブンのブランドイメージが崩れる等々の理由をあげながら、最後は「止めないとFC契約を解除する(=多額の違約金をとる)」と通告してきたという。
本部の強硬な姿勢に、「契約を解除されたら食っていけない」と、中には値引きをやめたオーナーもいる。AさんとBさんも一旦は値引きを中止したが、「理は自分たちにある」と思い直し、初志を貫くことにした。
そして現在、前述したように7人のオーナーが計八店舗(1人のオーナーは2店舗を経営)で値引き販売を続けている。岡山、瀬戸内、備前の3市にあるセブン‐イレブン店舗は合計で約80。実にその1割が「反旗」を翻しているのである。
それにしても、セブン‐イレブン本部はなぜ、値引き販売にそれほどまで神経をとがらせ、恫喝をしてまでそれを止めさせようとするのだろうか。他の店に迷惑がかかる、ブランドイメージが崩れる、本当にそれだけが理由なのだろうか。
加盟店が値引き販売を行うと、Aさんが実際に体験しているように、廃棄ロス(=ゴミ)が減る。それだけでなく、後述するように加盟店の利益が増え、一方で本部の取り分、すなわち加盟店から吸い上げるチャージ(ロイヤルティ)が減るという現象が起きる。実は、それこそが「恫喝」の本当の理由ではないのか。(後略)