(前略)ダンボール入り肉饅頭、水道水ミネラルウォーター、赤インキ入り西瓜――毒物食品のオンパレードに続いて、今度は若年労働者誘拐工場、人が住む家屋を丸ごとダンプで破壊する驚愕の強制収用、水泥棒、電線泥棒。中国社会の「闇」をあぶり出すニュースが連日のように報じられ、それに世界中が驚嘆している。実はこれ、オリンピックを控えた中国が、世界中から北京に集まる人々に、中国がまとな国家であるとアピールするため、中国の負の部分を一掃しようと始めたことなのだ。
(中略)「安全・安心」が当たり前の日本にいると、一連の中国ニュースを「おぞましい」と他人事のように聞き流してしまうが、実はこれらのニュースの裏側で日系企業を凍りつかせるような事態が進行している。中国進出企業の老舗として知られているA社のトップが、こう天を仰ぐ。
「中国に進出して利益を上げてきた企業も、今後は大変厳しい状況にさらされる。上場企業の中には、中国事業が原因で破綻に追い込まれるところも出てくるでしょう」
中国事業が原因で本体の日本の上場企業が破綻に追い込まれるほどの事態とは、いったいどういうことなのか。
春の全国人民代表大会で打ち出された政策に、外資系企業が受けた衝撃の記憶は新しい。改革開放政策を推進するために、中国政府はこれまで、経済成長の牽引車として外資を受け入れ、優遇してきた。外資企業に課す税率を、国内企業より低い一五%に設定したのはその最たるもの。これは外資にターボチャージャー付きエンジンの搭載を許したようなもので、これにより外資企業は、インフラが整っていないとか法整備が未熟だというマイナス面には目をつむって、中国に進出することができた。
しかし、この優遇税率も2007年末で撤廃され、08年からは現地企業と同一の水準になる。外資の経営に大きな打撃を与えることが容易に想像できるが、実はそれはまだ序の口。外資のもう1つのターボチャージャーだった「労働契約法」が大改正され、08年から外資の労働コストと労働現場の仕組みが根本から変えられる。ターボチャージャーが一転、エンジンブレーキへと役割を変えてしまうのだ。
外資企業に限らず、中国の企業には、日本の企業と同じように労働組合がある。しかし、労組が経営側と給与や福祉など労働条件をめぐって交渉するとか、交渉が不調に終わったらストライキを起こすといったことは現実には不可能だった。独資であれ、合弁であれ、会社には中国共産党から労組を管轄する人物が派遣され、彼が労働組合を代弁するという名目で、実際は会社側に立って組合が暴走しないよう睨みをきかせてきたからだ。
こうして数千人、数万人という大規模な従業員を擁する工場が、ストライキもなく、1日2交替、3交替という先進国では消滅した勤務体制の下で、日夜操業を続けてきたのである。
反日暴動が起きた際、「日系企業のX社従業員1万五5000人がストライキに突入」「Y社で1万3000人の従業員がボイコット」などのニュースを聞いて、「中国の工場は大変だ」というイメージをもった人が多いと思う。だが実態は、地元市政府の介入により、例外なくストは1日で終息しているのである。外資企業は、中国の労働法に助けられて大発展してきたといっても、決して過言ではない。
ところが、その労働法を、中国は根本的に変えたのである。企業に終身雇用の採用を義務づけ、労働者には企業と交渉して問題解決を図るよう促す政策へと大転換したのだ。(後略)