記事(一部抜粋):2007年8月掲載

経 済

政 治的に処理された総連本部ビル「詐欺事件」

北朝鮮問題と検察のメンツを抱えた「捜査指揮」

「被害者なき犯罪」を摘発するのは、東京、大阪、名古屋に置かれた地検特捜部の最大の役割である。
 中央政界の政治家や霞が関の高級官僚を巻き込む贈収賄、上場企業の経営者などが誘惑にかられる粉飾決算やインサイダー取引、資産家が犯しがちな脱税などは、広い意味では「国民が被害者」ということになるのだが、自分の懐が痛むわけではないので、直接の被害を意識しない。
 だが、放置するのは「国家の秩序」を危うくする。そこで捜査権に公訴権を持ち、「最強の捜査機関」と謳われる地検特捜部が捜査に乗り出し、マスコミはその動きを大きく報じることで、「国家・国民に対する罪の重さ」をアピールする。
 では、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部の土地・建物と4億8400万円の現金を騙し取ったとして逮捕された緒方重威・元公安調査庁長官(73歳)の事件は、どう理解すればいいのか。加害者は緒方容疑者のほかは、不動産会社・三正元社長の満井忠男容疑者(73歳)と元銀行員の河江浩司容疑者(42歳)だが、被害者がいない。もちろん構図的には朝鮮総連だが、7月11日の記者会見で南昇祐(ナム・スンウ)副議長は、「被害者という認識はない」としたうえで、日本政府をこうののしった。
「(整理回収機構の競売申し立ては)在日朝鮮人から中央本部を奪うことを目的としたもので、安倍政権による凶悪な弾圧行為だ」
 被害者であることを認めてしまえば、「競売」という略奪行為も認めてしまうことになるという理屈だろう。
 朝銀系信組が1990年代末から2002年末にかけて相次いで経営破綻、それを日本政府は約1兆4000億円もの公的資金を投入して救済した。その債権を引き継いだ整理回収機構が、朝銀系信組が朝鮮総連に融資したと認定した分(628億円)の返済を求めるのは当然のことだろう。それを朝鮮総連は「凶悪な弾圧」というのである。
 共存の気持ちを萎えさせる発言だが、捜査する東京地検特捜部は、朝鮮総連のそうしたかたくなな態度は予想できたはずだ。詐欺は、特捜部がふだん手がける贈収賄や証取法違反や脱税と違って、被害者が存在しなければならない。被害者のいない詐欺事件では、公判維持も難しい。
 なのに、あえて朝鮮総連を被害者とした。理由はひとつだ。
「中央本部売却の責任者は、実質ナンバーワンといわれる許宗萬(ホ・ジョンマン)責任副議長(76歳)ですが、彼を競売妨害などの容疑で逮捕したくはなかった。だから朝鮮総連を被害者にしたんです。組織としての朝鮮総連は被害者ではないんですが、許副議長ないし部下の売買責任者個人が、緒方や満井に騙されたという理屈です」(検察関係者)
 そこには、間違いなく検察の官邸への配慮がある。(後略)

 

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