経 済
【企業研究】JR東日本
元国有地をこっそり売り、駅ナカで商店街を路頭に迷わす
東京・武蔵野市御殿山。JR中央線・吉祥寺駅から徒歩数分の閑静な住宅地の中に、約3000坪の広大なサラ地がある。近くには井の頭公園があり、繁華街にもほど近い。マンションを建てるには格好のロケーションだ。
もとは東日本旅客鉄道(JR東日本)の御殿山社宅(4棟)が建っていたが取り壊され、昨年8月、土地の所有権はJR東日本から、下関市に本社のある「原弘産」というマンションデベロッパーに移された。同時に、地目も鉄道用地から宅地に変更され、同社を債務者に極度額100億円の根抵当権が設定された。
ちなみに、この原弘産(大証2部)、安倍晋三首相の地元企業とあって、株式市場では「安倍銘柄」の1つとしてハヤす向きがあるが、下関市発注の公共事業(社会教育複合施設)の入札では、安倍首相の実兄が支社長を務める三菱商事と争い、同社より低い価格で入札しながら落札できなかったため、市を提訴(昨年10月)する騒動に発展した。その後、三菱商事が落札を辞退、原弘産も今年6月に訴訟を取り下げている。
それはともかく、JR東日本の社宅跡地を買った原弘産は、それから半年後の今年2月、「HUMプロパティーズ」(東京・四谷)という有限会社にこれを売却している。このHUM社は「あると法律経済総合事務所」というコンサルタント事務所の関連会社。同事務所は証券化やM&A、企業再生などのコンサルティングを手掛けているという。
JR東日本が社宅跡地を、遠く離れた下関の会社に売り、それが証券化ビジネスの担い手に転売されるに至った詳しい経緯は不明だが、JR東日本が、もとは国民の財産(国有地)であった社宅用地を売却して利益を上げたことだけは、疑いようのない事実である。
(中略)「駅ナカ」という言葉が定着したことでも分かるように、駅構内や隣接地の商業地としての価値が改めて見直されている。駅や線路の周辺に膨大な土地を有するJR東日本にとって、ここにきての地価の回復も絶大な追い風である。
それだけに同社の不動産事業の展望は明るいといえそうだが、それについては1つ根本的な疑問が残る。
JR東日本(他のJR各社も同様だが)が保有する土地は、そもそもが国の財産であり、民営化の際、旧国鉄が放漫経営の末に残した莫大な債務を国民が肩代わりしたおかげで、JR各社はその広大な「鉄道用地」の保有を許された。その鉄道用地を売ったり、運輸事業以外の目的に利用することは、もちろん違法ではないにせよ、そこには公共性という縛りが求められてしかるべきだろう。
たとえば冒頭の社宅の売却だ。100億円の極度額が設定されるほどの鉄道用地が、旧国鉄が残したツケを負担した国民が知るよしもないまま、営利企業に売却され、転売されていく。公共入札という手段がとられるならまだしも、随意契約で売却されていく。
実は、この御殿山の社宅跡地は氷山の一角で、他にも全国各地の社宅や、JR関連施設の跡地が人知れず売却されている。その数は累計で数百件は下らないとみられる。
旧国鉄では、全職員が入居できる社宅(家族寮、独身寮)を完備し、希望者は誰でも格安な賃料での入居を許された。民営化後、JRの職員数は年を追って減少し、また老朽化した社宅への入居希望も減り、多くの社宅が余剰となった。各地にあった診療所などの関係施設も合理化によって不要となり、そうした施設の跡地の多くが売りに出されている。
跡地にはマンションやホテル、商業施設が建ち、その意味で有効活用されているともいえるが、純然たる民間企業ならともかく、元は国有地である。売却益を国民に還元すべきとまでは言わないが、手続きは少なくとも透明であるべきだ。
ちなみに耐震構造の偽装が発覚した「アパグループ」のホテルの中にも、JRから購入した物件があるという。同社の代表は安倍首相の後援組織「安晋会」の有力メンバー。先の原弘産も親安倍企業と目されるが、妙な誤解を招かないためにも、JR東日本は元国有地の売却に関する情報を、たとえ狭小な物件であろうと国民に開示すべきだろう。(後略)