監督官庁による企業、業界に対する締め付けが厳しさを増している。厚生労働省がコムスンに介護事業の新規の指定・更新の打ち切りを通告したかと思えば、経済産業省はNOVAに一部業務停止命令を下し、返す刀で信販会社が大きな痛手を被る割賦販売法の改正を画策。金融庁は貸金業法改正、金融商品取引法の施行に続き、三菱東京フィナンシャルグループなどへの行政処分を乱発。公正取引委員会もヤマダ電機への立ち入り検査、改正独禁法によるゼネコン潰しに奔走……といった具合だ。業界の浄化や透明性確保のためには当然の処置ではあるが、裁量行政の復活にもみえる。いずれにせよ、小泉政権とそれに続く安倍政権の6年半で官の権力がさらに強まったことは確かだ。
そしていま、警察庁による改正風営法がパチンコホール業界を存亡の危機に陥れている。2004年7月の改正で射幸性の高いパチスロ機の撤去が義務づけられたが、その撤去の猶予期限がこの6月に到来したからだ。ホール業界はこの10年余り、店舗数と集客力の低下を余儀なくされてきた。そこへきて今回のパチスロ機対策。「出玉の激減で客離れが加速し、売り上げのさらなる減少という悪循環」(業界関係者)に陥るのは必至で、加えて新機種導入による設備投資負担が経営に重くのしかかる。
すでに今春以降ホール業者の倒産が全国的に頻発している。5月には業界6位のダイエー(スーパー大手とは同名の別会社)が636億円の負債を抱えて民事再生法の適用を申請、業界に激震が走ったのは記憶に新しい。とりわけ地方の中堅・中小業者が置かれている状況は深刻で、夏以降の未曾有の倒産ラッシュ、全国1万5000軒近くあるホールの半減を予測する向きもある。
貸金業法改正に伴う上限金利の引き下げも、パチンコ業界の足枷になっている。地方の大型ホールの近隣には必ずといっていいほど消費者金融のATMが設置されている。賭場としてのホールと消費者金融の絶妙な連携が、多重債務者増加の温床になってきたわけだが、上限金利の引き下げは融資対象者の選別が厳しくなることを意味する。ホール顧客層の多くが融資対象から外され、結果、ホール来店者の減少につながるという構図だ。風営法と貸金業法の改正がダブルパンチでパチンコホール業界に襲いかかっているのだ。
そうしたなか注目されるのが「参院選後にも成立が有力視される」(自民党カジノ議連関係者)という「カジノ法」。観光立国を目指す安倍内閣は、海外からの観光客の倍増を目論み、中川秀直自民党幹事長も沖縄の米軍基地跡地にカジノを誘致する構想を示唆している。いうまでもなくカジノには様々な利権が渦巻き、政治家からアングラ勢力まで魑魅魍魎が跋扈する。
そこで何とかイニシアチブをとりたい警察庁が打ち出したのが、パチンコホールから射幸性の高いスロット機を排除するという方針だった。
「カジノ法が成立すればカジノのスロットについては換金を合法化せざるを得なくなる。かといって既存のパチンコホールの全てのスロット機まで合法化してしまうと、警察が批判の矢面に立たされる」(警察庁関係者)。そこでホール業者を生け贄に、ホールからスロット機を一掃する風営法の改正に踏み切ったというのだ。
ホール業界の本格的な淘汰が始まる中、注目されるのがゴールドマンサックス証券(GS)の動向。パチスロ製造大手のアルゼの発行済株式の九%を取得して話題になったGSだが、パチスロ製造大手のオリンピアが平和に仕掛けたTOB(株式公開買い付け)でも、「背後にはGSの存在があった」(証券関係者)という。(後略)