連 載
【狙われるシルバー世代】山岡俊介
「消費者団体訴訟制度」で被害者は本当に救われるのか
(前略)こうした中、この6月7日に施行されたのが「消費者団体訴訟制度」である。
「必ず儲かる」と虚偽の事実を告げたり、自宅に2時間も上がり込んで相手を根負けさせ、強引に契約をかわすような悪徳業者に対し、消費者団体が個々の被害者になりかわって不当な勧誘を止めさせたり、契約条項をまともな内容に代えさせたりすることができるというものだ。
さらに、交渉で解決できなければ被害者に代わって訴訟を起こし、勝訴すれば、国がこの間の交渉結果や判決内容、さらに社名を公表するという。
もちろん、これまでも個々の被害者が裁判に訴える手立てはあったが、特に高齢者が馴れない訴訟をしても裁判に勝つのは容易でないし、訴訟費用もかかるとして、泣き寝入りするケースがほとんどだった。
これに対し、この法律が適用される消費者団体は、国が認定する消費者トラブルのプロ団体。勝訴する確率は高いし、信頼ある同団体の訴えによる社名公表は、悪徳業者にとっては「死刑判決」に等しい。
(中略)
このように聞くと、この消費者団体訴訟制度、画期的な法律のように思われるかもしれないが、決してそうではない。
まず、この適格消費者団体は、個々の被害者になり代わって損害賠償請求訴訟を提起する権限までは与えられていない。したがって、たとえ勝訴しても、その後の新たな被害防止に役立ちこそすれ、すでに被害にあった人の損害が補填されるわけではない。
また、この6月7日の施行までに適格認定の申請をしたのは2団体にすぎない。
「適格認定の申請を近くすると思われる団体はぜいぜい10程度です。しかも大都市で活動するグループがほとんどで、四国、九州、北海道、東北などは空白域になる見込みです。というのも、ヨーロッパなどでは同種の団体に対して国庫補助金が出るのに、わが国にはそういう仕組みがないためです。唯一の財源は寄附金で、運営は弁護士も含めボランティアのため、訴訟費用などを考えると、年間に訴訟提起できる件数は1団体せいぜい2〜3件でしょう。その程度では悪徳業者にとって本当の脅威とはなり得ません」(消費者問題に精通する弁護士)
報道によれば、ドイツの代表的な適格団体「ドイツ消費者センター総連盟」は年間100件程度の訴訟を起こし、それに対し国からは年間約40億円もの補助金が出ているという。
そして、何より決定的とも思えるほど被害者側にとって不利なのは、この団体訴訟制度が適用できる被害は、消費者契約法で規定された「不当勧誘」と「不当契約条項」に限られる点だ。
(中略)
「結論をいえば、消費者センターに届いている苦情相談のうち、今回の消費者団体訴訟制度の対象になり得るものは1%に満たないと思われます。ほとんどは特定商取引法、もしくは『2カ月で〇〇キロ痩せられる』『身長が伸びる』などと謳った健康食品や健康器具販売のように景品表示法に抵触する商法なのです」(消費者問題に詳しい弁護士)
これでは、ほとんど骨抜きといってもいいのではないか。(後略)