経 済
大蔵OB頭取が「乱脈経営」
「東和銀行」いまだ処分なし【金融ジャーナリスト匿名座談会】
(前略)
A それでもやはり、金融庁はおかしい、と言いたくなることもある。例えば、群馬県の第2地銀、東和銀行の一件。なんで処分が出ないんだろうね。
B 東和銀行といえば、前期決算では不良債権処理がかさみ赤字になっていたと思うが、ほかに何かあったっけ? 当初の業績予想とは大違いの221億円の経常赤字で、274億円の最終赤字。いまだに不良債権処理で赤字決算ということには、少し驚かされたけど。
A 端的に言うと、絵に描いたようなトップによる乱脈経営だよ。
C 銀行では「自己査定を厳格に行ったことによる赤字決算」などと、あたかも前向きな会計処理とでもいうように発表しているが、内実は後ろ向きもいいところだ。
B なるほど、そういうことか。確かに、今になって自己査定の厳格化というのはおかしな話だ。今までは厳格にやってこなかった、ということだからね。
C 東和銀行は、金融検査が入るたびに、内部告発が金融庁に寄せられてきた。内部の行員が「大変だから、金融検査で経営の過ちを正してください」とタレ込んだ。これは最近の話ではない。ずっと以前からそうだった。
A この銀行の頭取として長らく君臨してきたのは増田煕男氏だ。その増田氏が今回の赤字決算を前にして突然辞任した。まあ辞任というより、実態は辞めざるを得ない立場に追い込まれたということだ。
B 増田氏は旧大蔵省OBだろう。つまり、最近では少なくなった天下りの頭取だ。
C そう。その増田氏が長期政権の果てに暴君と化したんだ。ある旧大蔵省OBは「あの増田さんがなぜ、あんなになってしまったのか」と嘆いていた。大蔵省時代はおとなしい官僚だったらしいよ。
B それが暴君になるとはねえ。
A 東和銀行の親密先企業にTエステートという不動産会社があって、この会社が東京・銀座にビルを建設した際、銀行は数十億円の融資を実施した。しかし、この融資が不良化し、破綻懸念債権になった。実はそうなることを承知のうえで、増田氏が独断で融資を実行させたと、金融検査で指摘されているんだ。
B 独断で実行?
C 取締役会の決議を経ないで、増田氏が勝手に決めてしまったということさ。
A さらに、このビルは完成後、別の親密先の企業に売却されているんだ。
B 銀行の親密先企業間で不良債権化した担保不動産を売買するなんて、不良債権隠しと疑われても仕方がない。取引が適正な価格で行われたのか、明確にする必要があるね。
A 東和銀行は中堅クラスの第2地銀。1件数十億円の融資となれば相当に大きな融資だ。にもかかわらず取締役会にかけないで融資を実行したとなれば法律違反とみられても仕方がない。
C 増田氏は前橋の料理店の女将と親密な関係という噂があるんだが、その女将との関係でも不透明な融資が行われたという話がある。増田氏はパーティーなどには、その女性を同伴させていたらしい。つまり明らかな公私混同だ。
A その女性の料理屋に、増田氏は日参していたらしいね。コバンザメ役員たちも顔を出していたというから、目を覆いたくなる光景だ。
B しかし、取締役会を無視して不明朗な融資をしたのが本当なら、前頭取は特別背任を免れないだろう。不良債権化させて実際に損失が発生しているなら完全にアウトだ。
C そう。アウトでなければおかしいんだよ。
A 今回の赤字決算は、増田案件の処理によるものだったのだろう。だからこそ、増田氏は頭取を降りざるを得なかったわけだ。しかし、頭取を辞めました、はいご苦労さん、で片がつく話ではない。
B 金融庁はどうするつもりなんだろう。
C それがさっぱり分らない。決算発表も終わったわけだから、そろそろ処分が出てもおかしくないのに、今のところ何の音沙汰もない。不思議な話だ。
A 財務省が事件にフタをしようとしているという話もあるんだ。天下り人事が公務員制度改革論議の中で問題視されている中で、天下り頭取の乱脈経営が明らかになると、いよいよ財務省などの立場が悪くなるからだ。
B しかし、そうだとしたら、それこそ大変な問題だ。金融庁は身内の悪行は隠すのか。民間プロパーの頭取の銀行に対しては、ちょっとでも問題を起こせば、記者会見での発表まで強要するくせに、東和銀行が極めて杜撰で深刻な経営問題であるにもかかわらず、何もなかったようにウヤムヤにするなら、許せないことだ。これは金融庁の問題にも発展するだろう。
C しかも、増田氏の後任の頭取になった吉永國光氏もまた、旧大蔵官僚だ。国際協力事業団の役員などを渡り鳥して、東和銀行の専務、副頭取を歴任している。もし吉永氏が天下りを批判されたくないのなら、増田氏を告発しなければいけない。告発しないなら、吉永頭取も同罪と言っても過言ではないだろう。(後略)