「公明党は目標の13議席に届かず11議席。自民党は40議席程度で、与党は過半数を10〜13議席割って大変な事態に陥る」
小泉純一郎の首相秘書官だった飯島勲が6月中旬に講演し、参院選での与党大敗北を予想した。ちょうど安倍内閣の支持率が十数パーセントも急落した直後。安倍周辺は予想が当たるかもしれないと震え上がった。
予想といっても「勘」にすぎないが、いまや永田町で妖怪的存在感のある人物の発言は不気味な重みがある。
小泉は「参院選に負けても安倍は退陣する必要はない」と言った。だが、過半数を十数議席も割ったら話は別。飯島発言は「安倍退陣もあり得る」というメッセージだ。
首相の安倍晋三はそのころ、公務員制度改革法案の成立を支持率回復の頼みの綱として、なりふり構わぬ姿勢だった。後見役を自認する元首相、森喜朗からは電話で「官僚の天下り阻止は国民にうける。民主党が反対して成立が無理になれば、選挙の対立軸になる。官公労を抱える民主党は官僚の味方だといえばいい」とのアドバイスがあった。
飯島の敗北予測には「そんな付け焼き刃の改革姿勢を国民が信じるものか」(周辺)という警告が含まれている。飯島は郵政民営化に反対した議員を復党させた安倍が気に入らない。飯島からみれば安倍は小泉改革の継承者の役割を果たしていない。
飯島発言と符号を合わせて、選挙応援に行かないはずだった小泉が、郵政民営化への賛成を条件に参院候補の街頭演説を引き受けると表明した。「これで飯島が敗北予想をした理由がわかった」とベテラン議員がいう。安倍が参院選をしのぐには、小泉改革路線に戻り、小泉の国民的人気に頼るしかない、飯島はそう言いたかったというのだ。
しかし、年金問題と汚職疑惑の農水相自殺による安倍政権への逆風は深刻さを日々増している。小泉に頼れば与党は過半数を維持できるのか。そんな甘い状況ではないことは誰でもわかる。ポスト安倍の1人、前財務相の谷垣禎一は6月15日の講演で「与党が過半数を割れば当然、安倍首相の責任が問われる」と安倍退陣への布石を打った。
自民党が大敗した場合、綿貫民輔の国民新党を取り込んでも参院は与党過半数に達しない。安倍の次の首相が安定政権をつくる方策は1つ。民主党を分裂させて新党をつくり、連立与党に加えることだ。6年前、小泉が首相になった自民党総裁選で「負ければ断行する」(飯島)としていた秘策と同じ。当時の連携相手は、その後代表になった前原誠司、国対委員長を務めた野田佳彦ら、現代表の小沢一郎に反発する面々だった。
その民主党内では、ご意見番的存在の前衆院副議長、渡部恒三が、常任理事会をしばしば欠席する小沢を「出ないときは理由くらい言え。天皇陛下じゃないんだ」と真っ向から批判し、反小沢の旗幟を鮮明にした。背景には10億円の政治資金で不動産を購入した小沢の政治体質への、前原、野田らを中心とした広範な党内不満がある。「参院選が終わったら、勝敗にかかわらず渡部、前原らは党を割る計画」(若手)という見方がある。(後略)