(前略)ベトナム経済がさらなる成長を続けると専門家が判断する理由は、中国一極集中のリスクの高まりが、ポスト中国の投資先としてベトナムを浮上させたということもあるが、人口がインドネシアを除くとASEAN最大で、しかも国民の平均年齢が26歳と若く、消費マーケットとしても魅力が大きいことがあげられる。
そして見落としてならないのは、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマーを貫く全長1450キロの「東西回廊」と、中国雲南省昆明からラオスを通ってタイのバンコク港に抜ける約2000キロの「南北回廊」が完成し、これがインドシナ半島全体を1つの経済圏に変えるほどのインパクトをもたらしたことだ。
ベトナム人民委員会外務局は「タイとラオス、ベトナムとラオス間の国境の相互乗り入れで各政府の方針は固まっている。年末までには、出入国時に実施する税関手続きが1つの窓口で可能になるだろう」と相互乗り入れ時代の始まりを伝えている。それを受け、日本通運や日本郵船、オランダのTNT、ドラゴン・ロジスティックなど世界の物流企業は上海とシンガポールを結ぶ全長7000キロ、中国とバンコク、中国とホーチミンを結ぶ全長4000キロの物流路線の構築を目指している。
その東西回廊を実際に走ってみた。東の出発点はダナン。ベトナム戦争発端の地だ。バスは、街路樹が植えられた中央分離帯のある片側二車線の道路を走りだし、やがて片側一車線になり、緑濃い高原地帯を縫うように登り続ける。途中ところどころ中央分離帯がなくなったりと道路は様相を刻々と変えながらも、この道は1450キロ先、ベンガル湾を臨むミャンマーのモーラミャイン港まで一直線で繋がっているのだ。
ダナンを出て2時間で古都フエに着く。さらに2時間走るとラオスとの国境の町ラオバオ。出国事務所に向かうと、札束を手にした女性たちが「マネーチェンジ」と叫びながら群がってくる。大型トラックが衣類や洗濯機や炊飯器のダンボールを満載し、通関手続きを待っている。どのトラックも過積載で重量オーバーとしか思えないが、運転手も税関職員も気にする様子はない。
出国手続きは約30分。カードに記入し、スタンプを押してもらって手続きは完了。筆者がかつてアジアを歩いた頃を思うと、ビザ無し入国、しかも手続きの簡単さは隔世の感がある。
ラオスに入ると風土が一変した。地元のローカルバスは屋根に山のような荷物を載せている。トラックの役割も果たしているのだ。バスの客席も荷物が一杯。野菜、肥料、タイヤ……。蛇を担いでいる乗客、ニワトリの足を数羽ひとまとめにしてぶら下げている客もいる。生活臭がプーンと漂う。車窓からはところどころに高床式の粗末な住居が見え、農民がハンモックに寝ている。水牛、羊、ニワトリも見える。
ローカルバスに決まった停留所はない。降りたい場所で声をかけるとストップし、通り道で手を挙げると止まってくれる。のんびりとバスに揺られて六時間、あたりが闇につつまれた午後七時にメコン川のほとりにあるタイとの国境の町、サバナケットに着いた。(後略)