経 済
リテール失速、高コスト体質
銀行の収益力低下が鮮明に【金融ジャーナリスト匿名座談会】
(前略)
C 予想されていたことだが、収益力の低さが実際にみえてくると今後が心配になるね。メガバンクなどの決算発表も終わったが、とにかく利益はガタ落ちだ。
A 無理もないよ。企業向け貸し出しはうまくいかないし、「今後のメーンビジネス」と経営トップが言い続けてきたリテール分野もよくない。つまり、どこで稼げばいいの? という状況になってきている。
C 個人向けリテールビジネスは土台から崩れたからね。
B 銀行はもともと、消費者金融、信販・クレジット会社との本格提携によって利益を上げるという戦略だったが、貸金業規正法の改正で、ローン、キャッシング金利の大幅な引き下げが決まったことで、戦略の前提が狂ってしまった。消費者金融専業大手は利息返還請求の増大で数千億円の赤字を計上するという緊急事態だし、信販・クレジットカードもキャッシング金利の引き下げで収益力が大きくダウンした。もはや儲かるビジネスセクターとはいえなくなってしまったわけだ。
A 銀行はそこから利益を吸い上げるつもりでいたから、大きな誤算だ。
B おまけに、金融庁は検査で消費者金融向け貸し出しの査定を厳しくしている。つまり、儲けが少なくなっただけではなく、消費者金融とつき合っていると貸倒引当金を積み増さなくてはいけなくなり、その分、信用コストが高くなる。銀行にとってはダブルパンチだ。
C 今は各行ともリテール戦略の中心に投信販売を据えている。預金では儲からないから、預金者に投信を売って販売手数料を稼ごうというわけだ。しかし、これにも陰りが出ている。
B 昔の証券会社のように、今日はA投信を売り、翌日にはそれを売却させてB投信に乗り換えさせるという回転売買をやれば、投信販売は毎日、手数料を稼ぎ出せるおいしいビジネスということになるが、今時そんな売り方をしたら、金融庁から厳しい処分を受ける。だから、どこも回転売買を手控えている。つまり投信は、1回売ったら当分はそのままだ。言ってみれば、預金者の預金が投信に変わるのは1回だけ。だから収益が拡大し続けるわけではない。そうした現実が見え始めた。そこで結局、お定まりの住宅ローンを売り続けているわけだが、これもまた限界がある。人口が減少を続ける中で、住宅取得だけが拡大するということはありえない。つまり住宅ローン販売も頭打ちになってくる。その兆しが見え始めた。
C 住宅ローンに限らないが、ローンは新規販売し続けないと、毎日、返済完了の部分がやってきて、残高が減っていく。残高が減れば利益も減る。しかも昔の住宅ローンは金利が高かったから、金利の高いローンが毎日なくなっていくわけだ。
B そう。金利の高いローンが減る中、極安金利の住宅ローンを販売して、どうにか残高の減少に歯止めをかけているが、いずれは減少分を穴埋めすることもできなくなるだろう。人口減で住宅取得需要は減ってくはずだからね。
A つまり銀行の収益力拡大は見込み薄だということ。この数年は、貸倒引当金の戻入益というマジックで、収益が上がってきたようにみえていたが、戻入益も限界が近づいてきた。銀行さん、これからどうするの? という状況だね。
B 結局、メガバンクは欧米の主要銀行のように海外で稼ぐしかない。しかし、これがまたうまくいかない。海外業務を拡大するには現地銀行を買収するしかないが、残念ながら、欧米は好景気がバブル経済へと発展している。つまり、銀行の買収価格も跳ね上がった。日本の銀行では手が出なくなっている。
A 八方塞がりだね。
C 地銀などはどうするんだろう。地方では企業の資金需要もない。住宅需要も期待できない。ないない尽くしの中でどう経営するのだろうか。
B しかも、預金だけは集まってジャブジャブしている。ご多分にもれず、投信販売を強化しているが、当然これも限界がある。そこで、株式投資や国債投資などに力を入れているが、それでも足りずに、最近はヘッジファンドに投資したり、なにやら怪しげな海外債券にも投資したりしている。そのうち、それらが暴落して大火傷を負うかもしれない。目先の利益追求に走り、リスク判断が鈍っているようだ。気をつけないといけない。
A 銀行は幸せだなと思うのは、収益力が落ちてきたのにもかかわらず、抜本的なコスト削減の絵を描こうとしないことだ。むしろ、奇妙な投資を続けている(笑)。
B まったくだ。理解に苦しむのは、たとえばキャッシュカードの生体認証。たしかにセキュリティ対策上、そんなカードもあっていいと思う。しかし一般の預金者にまで広げる話なのかね。(後略)