記事(一部抜粋):2007年5月掲載

連 載

武富士でついに「内紛」勃発か

【岐路に立つ消費者金融】中川一博  

 最近多くの人から「武富士はいったいどうしてしまったのか」との質問を投げかけられる。
 貸付金利の引き下げや融資額の総量規制導入など、消費者金融業界を取り巻く状況が激変し、業者は大手から中小まで軒並み、かつてない苦境に直面している。債務者が払い過ぎた法定金利以上の利息の返還請求に備え、巨額の引当金を計上せざるをえなくなった結果、ほぼ全ての業者が大幅な赤字に転落、店舗閉鎖や人員リストラを余儀なくされている。長らく業界トップの座にあった武富士も例外ではなく、前2007年3月期は3000億円を超える経常損失を計上、今期ライバル他社同様、ここしばらくは我慢の経営を強いられるのは間違いない。
 しかし「武富士はどうしてしまったのか」という質問は、こうした厳しい事業環境を心配してのものというより、創業家(武井家)およびその周辺で何らかの異変が起きているようだ、という観測のもとに発せられている。というのも、前号で書いたように、武富士のブラックボックスともいえる「京都の土地」をめぐって、売却話が出ては消えるなか、この土地を所有する武富士関連会社で内紛を予見させる動きがあったほか、武井一族が起居する東京・杉並区の豪邸の売却話が水面下で進行し、それがトラブルに発展しているとの情報まで飛び交っているからだ。
「京都の土地」とは、武井保雄・元会長(昨年8月に死去)がバブル時代、ファミリー企業を使って地上げを試みた一連の土地を指す。具体的には京都駅前の旧同和地区、高島屋の隣接地、北白河の山林のことで、武井氏および武富士は膨大な費用と時間をこれに費やしてきた。
 しかし京都という閉鎖的な土地柄、しかも旧同和地区という複雑な歴史に彩られた土地を含んでいるとあって、地上げは思うように進まず、再開発計画は事実上頓挫。結局、京都でも有数の一等地でありながら、現在に至るも遊休地として塩漬けになったままである(一部は駐車場として利用されている)。
(中略)そうしたタイミングで、京都の土地問題で重要な役回りを演じることになると目される人物に関する怪文書が出回り、さらに憶測が広がっている。その人物とは京都の同和地区住民の団体「崇仁・協議会(旧崇仁協議会)」の会長を務める川村眞吾郎氏のことだ。
 同協議会はそもそも、武富士が問題の土地の地上げ、再開発にあたって協力を依頼した団体である。しかし当時の代表者である藤井鉄雄氏と武富士の間に金銭トラブルが発生、広域暴力団を巻き込む「抗争」に発展し、死者を出すほどの騒動になった。その後、藤井氏は覚醒剤使用の疑いで逮捕され、有罪判決を受けて服役。その藤井氏や前代表の中口寛継氏にかわって協議会の代表になったのが川村氏である。
《前略、突然斯様な書状差し上げる失礼何卒御容赦下さい。私は今世間を騒がしている武富士の幹部社員の一人でございます》の書き出しで始まる怪文書は、川村氏を《当社の惹き起こした騒動に関しある意味では当事者以外では社内の誰よりも真相を識っている人物》とし、《川村に関して私が知る事実の全てをここに記し、貴誌の取材の一助として頂きたく願っております》と続ける。
 それによると川村氏は、崇仁地区の住民はもとより、行政、政治家、裏社会をもまとめる力のある辣腕者で、警察からも「筋の通った硬骨漢」と評され、武井会長も「義理人情の分かる侠」として高く評価していたという。
 さらに私の事件(武富士の内部資料を持ち出したとして逮捕される一方、盗聴疑惑を告発した件)にも触れながら、川村氏がこじれた事態の収拾に奔走したことなどが記されている。A4判四枚にびっしり書かれた文書はなかなか読みごたえがある。私の与かり知らぬことも相当書かれていて、内容の信憑性は判断しかねるが、要は川村氏が武富士再建のキーマンの一人であると結論づける内容になっている。
 川村氏が「義理人情の分かる硬骨漢」であることは、私自身、氏と少なからぬ交流があり、それと承知するところではある。武富士再建のキーマンであるかどうかはともかく、武井家や武富士が、京都の土地を売却するにしろ自社で開発するにしろ、何らかの目処をつけるためには、協力を求めざるを得ない相手であることは間違いない。土地問題を解決するには、崇仁地区の住民たちの合意を得るのが大前提になるからだ。
 そう考えると、怪文書は「話の分かる男」である川村氏に、何者かが投げかけた秋波ととれなくもない。
 川村氏に確認してみたところ、怪文書の登場と前後して、複数の武富士関係者から相次いで電話が入ったという。彼らは一様に「奥さんには世話になった」「奥さんはボンを守ろうと必死になっている」などと、武井会長の未亡人である博子氏や、次男で武富士の現代表取締役専務である健晃氏の側に立っていることを強調しながら、武富士関係者から最近、接触がなかったか、土地の件で何か情報はないかなどと尋ねてきたという。(後略)

 

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