記事(一部抜粋):2007年5月掲載

経 済

「ABS」にも利息返還リスク

ノンバンク危機の引き金に【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)C そうした中で、中堅消費者金融の三和ファイナンスに対する金融庁の行政処分が業界に大きな衝撃を与えている。61日間の業務停止というのは極めて重い処分だ。
A 三和ファイナンスは一時、テレビコマーシャルをやめていたが、最近になって復活させた。少し経営状況に余裕が出てきたのかなと思っていた矢先の処分だった。
B 三和ファイナンス問題で気になるのは、証券化の問題だ。同社は資産担保証券(ABS)による資金調達を積極的にやってきたが、これが今後どうなるか。
C もともとABSなど貸付債権の証券化には問題が多いからね。
A 三和ファイナンス問題が、どうABS問題に関係するわけ?
B ABSは、マスタートラストという証券化枠を設定し、その中に組み入れた債権が償還を迎えたりしてなくなった場合に、マスタートラストに新たな債権を組み入れるという仕組みになっている。つまり、一度ABSをやると、絶えず債権を補充する必要があるわけだ。しかし、61日間という長期の業務停止となると、新規業務ができないから、マスタートラストに新規債権を補充することができなくなる恐れがある。そうなると三和ファイナンスのABSは崩壊しかねない。
A しかし三和ファイナンスはABSの返済・解消を進めていたと聞いているけど。
C たしかにアレンジャーを務めてきたメリル・リンチが懸命になって解消作業を続けてきた。しかしすべてを解消したわけではなかったらしいよ。
B ABSは、信販・クレジットカード業界でも資金調達手段の一つとして盛んに活用してきた。たとえばオリコだ。オリコは前期、巨額の損失を計上し、みずほグループなどの支援を受けて抜本的な資本強化を行った。その際に今後の経営計画を打ち出したが、そこにはABSを徐々に縮小させる計画が盛り込まれている。
A なんでABSは縮小しないといけないの?
B 利息制限法金利を超えるローンや、信販・クレジット会社のカードキャッシングなどでは、過払い利息の返還請求が増大し、実際に各社の利息返還額が急増している。これは、証券化した貸付債権にも利息返還リスクが発生していることを意味している。だから証券化したローンやキャッシング債権は、利息返還で消えた利息収入分を穴埋めする必要がある。これは非常に厄介なことだ。証券化の動きが縮小しているのはそのためだ。
A つまりオリコの場合、キャッシングやローンの債権を証券化すると、その部分にまで利息返還が付きまとうことになるわけか。
B そういうこと。だからオリコは今後、キャッシング債権の証券化をどんどん縮小していく。ただし証券化は、単なる資金調達手段ではなく、将来利益を前倒し計上するために行うという面もある。信託を経由すると、信託分配益という名目で利益を計上できるんだ。
A 利益の嵩上げが可能ということ?
B そう。だから、一度証券化すると、なかなかやめられなくなる。やめれば利益水準がガクンと下がってしまう。まあ中毒のようなものだ。
C しかし、ABSなど証券化の動きが縮小してきた理由は、グレーゾーン金利の撤廃で利息返還請求が増えたからというだけではない。金融庁の意向も関係しているよ。
A それはまたどういうこと?
C ABSなど証券化には信託機能が必要なので、マスタートラストの組成は信託銀行がやっている。ところが昨年暮れ近くになって、金融庁が信託銀行に対し、「消費者金融債権のABSビジネスを引き受けるのはいかがなものか」という意向を伝えた。要するに、消費者金融のABSはやらないほうがいいという指導を行ったわけだ。
B そうらしいね。それまでも消費者金融債権のマスタートラスト組成について慎重だった信託銀行は、これで一気に縮み上がってしまった。純国産の信託銀行は軒並み引き受けをストップしている。その後も継続していたのは一部の外資系信託だけだ。
C 外資系信託も、今はストップしているみたいだよ。
A なるほどね。消費者金融会社の経営はますます厳しくなっている。大手クラスのように自己資本が強固であれば問題ないが、中堅以下は自己資本が厚くない。だから一旦、資金調達先が融資をしぼり出すと、資金繰り倒産のリスクが高まる。もし倒産して債務超過の損失が発生したら、証券化に関与している信託銀行にも損失負担が生じかねない。外資系信託もさすがに手を出しずらくなったんだろう。
C 監査法人の対応もずいぶん変わってきた。厳格な監査で知られる一部の監査法人では、消費者金融債権の証券化に対して否定的な考え方を強めている。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】