「ブラックアウト期間中に情報漏洩があったのではないか」
3月20日の参議院財政金融委員会で、金融史上最大の事件に発展する可能性もある興味深い質問が民主党の大久保勉議員によって発せられた。「ブラックアウト」とは、日銀の政策決定会合における情報管理ルールのこと。具体的には金融政策決定会合の二営業日前から会合終了日の日銀総裁記者会見が終わるまでの間は、原則として金融政策及び金融経済情報に関する発言を関係者が外部に対してしてはならないと定められている。
ところが、このルールが、日銀が追加利上げを決定した2月21日合で破られたという疑惑が持ち上がっているのだ。
大久保議員の指摘によると、この日、昼の〇時四四分頃にNHKが「福井俊彦日銀総裁が0.25%の利上げを提案」と、連続ドラマの放映中にテロップで速報した。しかし、日銀による正式な利上げ発表は午後2時19分。つまりNHKは日銀関係者から事前に確度の高い情報を入手していたことになる。
日銀法では、ブラックアウト間の情報の漏洩があった場合、関係した者は1年以下の懲役刑を科せられることになっている。大久保議員はまず、情報の漏洩に携帯電話が使われた可能性が高いとして、金融政策決定会合の出席者に、携帯の所持が認められているかどうかを質した。これに対し、日銀の山口広秀理事は「日銀の出席者については原則として携帯の持ち込みは禁止しているが、政府関係者については本省との連絡調整等が必要な場合もあり、携帯の持ち込みは禁止されていない」と回答した。では、仮に誰かが外部と連絡をとっていたとしたら、それは何時何分であったのか。
政策決定会合が中断したのは2回。最初は午後0時30分頃で、次が午後1時頃であったことが政府関係者の質疑で明らかになっている。2回目の小休憩時点では、すでにNHKのニュースが流れているので、焦点は1回目の小休憩がとられた0時30分以降の動きに絞られる。
この小休憩時に出席者はどういった行動をとったのか。日銀関係者は原則、携帯の持ち込みが禁止されており、休憩時も日銀内の自室に戻ることはできない。一方、政府関係者は隣接する控え室に戻ることが認められており、そこで携帯を使って本省に連絡を入れることは可能。日銀総裁の提案に対し、議決延長請求権を行使するかどうかを本省と協議する場合もあるからだ。
問題の2月21日の会合に出席した政府関係者は2名いる。田中和徳・財務副大臣と浜野潤・内閣府審議官である。浜野審議官は、最初の休憩があった0時30分以降、携帯電話を使用していないことを質疑で明らかにしたが、田中副大臣は、この財政金融委員会を外遊のため欠席しており、本人からの説明はない。ただし、関係者によると、田中副大臣は0時40分過ぎに控え室に入り、そこで随行員に総裁提案について財務省に連絡を入れるよう指示したという。だが随行員が本省に連絡をとった時点で、NHKはすでに速報を流していたとも弁明している。それを信じるなら、NHKの報道以前に外部と連絡をとった者は1人もいないことになる。
では、NHKは関係者の証言によらず、単なる憶測に基づいて、日銀の利上げという金融政策上、最も重要な情報をあたかも確定情報のように報道したのだろうか。NHKの勇み足が結果オーライとなったにすぎないのだろうか。
実は、日銀の政策決定会合の内容をNHKが抜いたのは今回が初めてではない。2006年3月9日の量的金融緩和の解除決定、同年九月のゼロ金利解除と、いずれもNHKが速報している。決定会合の情報がどこよりも早く入手できるルートをNHKが持っていることは間違いないようだ。
日銀担当記者の間では「NHKは財務省から情報を得ているようだ」との声が多いが、財務省関係者は「内閣府から情報が漏れている可能性がある」と、この見方を否定する。(後略)