記事(一部抜粋):2007年3月掲載

社会・文化

捜査当局「市場マフィア」一掃へ

最悪の形で食いつかれたアドテックス

(前略)こうした事態を、検察・警察の捜査当局、市場の監視役である証券取引等監視委員会などが、手を拱いて見ていたわけではない。折りにふれて摘発、ここ2〜3年はその動きを活発化させ、丸石自転車、駿河屋、メディアリンクス、大盛工業、ソキア、日本エルエスアイカードといった上場企業を食い物にした闇勢力を一網打尽にしている。
 ただ、捜査当局の動きが連動していたわけではない。摘発したのは東京と大阪の両地検特捜部、警視庁と大阪府警の組織犯罪対策課などだが、彼らは「上場企業を暴力団の資金源にしてはならない」という共通の意識はもちながらも、情報の共有など組織的対応をしてこなかった。
 だが、今年から警察が総力をあげて「市場に巣くう暴力団」を連続摘発していくことになる。昨夏、政府は内閣官房内閣審議官を議長に、「暴力団資金源等総合対策に関するワーキングチーム」を発足させているが、ここに集約された情報をもとに対策を打ち出し、暴力団排除を徹底させる方針だ。
 ヘラクレスに上場していたコンピューター関連機器メーカーのアドテックスが、資産約6300万円を不正流用したとして、警視庁組織犯罪対策3課が、2月16日、民事再生法違反(詐欺再生)容疑で、山口組系弘道会系元組長の下村好男元副社長を逮捕したのは、その狼煙と言えよう。
(中略)
 アドテックスの場合は、「マフィア」に最悪の形で食いつかれた。
 禁断の資金調達を繰り返すなかで、長谷川元社長は自ら飛び込むようにして、企業舎弟のような連中とつきあうようになり、ついには「再建請負人」を名乗る前田大作元社長に経営を委ねるのだった。
 下村元副社長とともに逮捕された前田元社長は、格闘技雑誌『週刊ゴング』などを発行する日本スポーツ出版の社長を務める他、資産家向けプライベートバンキングサービスを手がける「怪しい企業グループ」の幹部でもあり、「表と裏の仲介人」(前田容疑者の知人)として知られていた。
 元組長で企業舎弟の下村容疑者を副社長に引き入れ、直接調達ではなく「資産の不正流用」という形で会社資産を詐取した前田容疑者の手口は、「会社ゴロ」と呼ばれた連中が上場企業を食い物にする際の常套手段で、特に目新しいものではない。
 だが、緩やかな上場基準のなかで承認を取り付けて上場を果たし、認められた多彩な調達法を用いて資金を集めるうちに「闇勢力」に付け込まれたという点が現在のマーケット犯罪で、今後、警察が総力を上げるのは、ここが暴力団の大きな資金源になっているからである。
 警察庁関係者が解説する。
「かつて暴力団は、傘下の総会屋を利用して上場企業に食い込んだ。今は、利益供与罪、利益供与要求罪と法的整備を進めたことで、総会屋は撲滅されたと言っていい。それに代わって、業績不振企業に資金調達を持ちかけて、株価操縦と会社乗っ取りの両方でひと儲けをたくらむ連中が増えてきた。うまく上場企業を利用すれば、数億から数十億円といった利益が瞬時に上がる。彼らにとってはこんなうまい儲け話はない」
 前出の「対策ワーキングチーム」の情報収集のなかには、警察の持つ反社会的勢力の情報と、東証などの取引所が押さえている企業の役員、大株主情報との擦り合わせなどもある。縄張り意識を捨て、功名心は後回しにしてでも、「マフィア」を一掃しようということなのである。
 さらに示唆的なのは、今回の捜査が、総会屋を主に担当する組織犯罪対策三課の手で行われたことだろう。利益供与罪をもとに数々の戦果を上げた組対三課だが、総会屋の消滅と共に課の存在意義を問われていた。(後略)

 

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