記事(一部抜粋):2007年2月掲載

連 載

【狙われるシルバー世代】山岡俊介

 障害者福祉施設の横領事件「黒幕」はなぜ逮捕されないのか

     
(前略)
 その社会福祉法人は「翌檜会」(本部・埼玉県鴻巣市)といい、知的障害者更正施設「啓朋学園」を経営している。
 実はこの翌檜会の創設者で理事長だった金子俊也氏(45歳)は、2005年6月、埼玉県警捜査二課に業務上横領容疑で逮捕されている。容疑事実は、1998年ころ、啓朋学園の入所者の保護者から集めた寄付金計787万円を、自身が管理する口座に移し横領したというもの。昨年6月、さいたま地裁で懲役2年6月、執行猶予5年の判決を受け、控訴しなかったため同判決が確定している。
 こう聞けば、金子氏は社会福祉に従事するに値しない、とんでもない人物と言わざるを得ない。ところが、公判資料や内部資料、金子氏本人も含めた複数の関係者の証言などを総合すると、真相はかなり異なるようなのだ。
 金子氏の実家は3代続けて幼稚園を経営していた。同氏はこちらの経営に急がしく、したがって、翌檜会の運営は当時の施設長に任せきりだったという。
 そして、そのことを幸いに、「顧問」を名乗る市田康介(63歳)なる人物が、「啓朋学園を設立するためのカネを出したのは俺だ。学園のオーナーは俺。金子はただの飾りに過ぎない」(元職員の「陳述書」より抜粋)などと公言し、学園が開設された98年から、失踪する01年5月ごろまで、同学園の会計を牛耳っていた。
 複数の職員が、当時の施設関係の通帳・印鑑は施設長ではなく市田氏側が保管し、管理・決済を行っていた、と証言している。市田氏とは一体いかなる人物なのか。
(中略)
 実は、翌檜会を管轄する立場の埼玉県も、市田氏が学園で不正を働いていた疑いのあることを、2000年11月末の時点で把握していたフシがある。
 というのも、同時期、啓朋学園の元職員が市田氏の不正の証拠資料を持って県庁に出向き、障害者福祉課の職員に告発した、と証言(陳述書も提出)しているからだ。この元職員は「県は告発を受け、同年末、3日ほど同学園に監査に入ったと聞いている」と述べているほか、市田氏が学園の工事で下請けに使ったとされる複数のペーパーカンパニーの名前や、ヤマダ電機からレーザープリンター等を購入した際、料金を水増しして裏ガネをつくった証拠の契約書や請求書を添え、障害福祉課に提供したと陳述している。
 それを裏づけるように、「告発」の約半年後、『毎日新聞』(01年6月23日付)も、「顧問名乗る不審人物、施設運営に深く関与――県調査」という記事を掲載している。同記事によれば、「顧問を名乗る不審人物」(=市田氏)は啓朋学園への入所希望者との面談や、職員の採用にも立ち会っていただけでなく、自ら寄付金を要求。県は6月14日付の指導監査に、この「部外者」の排除を盛り込んだという。
(中略)
 たしかに、自分たちが払った寄付金の使途に疑問を感じた保護者らが、表向き学園の「顧問」にすぎない市田氏ではなく、理事長である金子氏を疑い、告発したのは当然のことである。だが、金子氏に対する捜査の過程で、市田氏の犯罪行為は県警の知るところになったはずであり、いくら顧問より理事長を逮捕するほうが世間受けし、県の面子も立つといっても、市田氏が何らお咎めなしというのは、あまりに不自然だ。
 実は興味深い事実がある。市田氏が学園の工事を割り振った先の1つに、首相経験者の甥が経営する会社があるのだ。つまり、この甥も業務上横領の共犯の可能性があるということだ。
 さらに、市田氏と一緒に姿をくらました女性の1人は、かつて通産省(当時)に勤務した経験をもち、その時の直属の上司は後の特許庁長官だった。しかも同長官が天下った独立行政法人と、女性が代表を務めていた会社が密接な関係にあったことも判明している。(後略)

 

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