村上ファンドを主宰した村上世彰被告のインサイダー事件の公判が、東京地裁で最も大きな104号法廷で続いている。
ライブドア事件の堀江貴文被告の裁判もこの法廷で行われ、満員の傍聴人で賑わった。村上ファンド事件も大きな注目は集めたものの、争点が村上ファンドの株売買がインサイダー取引に当たるか否かという限定した部分に絞られているため一般的な関心は薄く、広い廷内には空席も目立つ。
2007年1月23日の公判で、検察側の証人に立ったのはライブドアでニッポン放送株買収のスキームを考えたファイナンス部門の元幹部だった。
反対尋問に入った弁護側は、村上被告の代理人が、04年11月8日のミーティングの時点で、ライブドア側にニッポン放送買収の準備が整っていなかったことを、この幹部に認めさせようとした。
――堀江さんは「年内にTOB(株式公開買い付け)をしていいですか」と発言したようですが、あなたに事前の相談はありましたか。
「いえ、ありません」
――堀江さんはTOBに関して非常に初歩的な質問をいくつかした。それで呆れた村上ファンド側に、あなたは謝りませんでしたか。
「謝罪した覚えはございます」
インサイダー取引の認識があったと全面自供した村上被告は、公判が始まってからは否認に切り替え、「インサイダー情報など聞いていない」と主張するようになった。
したがって検察側と弁護側の攻防は、04年9月15日、同年11月8日、05年1月6日の3回にわたって行われた村上ファンドとライブドアの会合で、インサイダー取引に該当する「重要事実」が漏らされたか否かにかかっている。
検察は11月8日の会合で、ライブドアが、資金的なメドがつき、大量の株式を取得する用意が整ったと村上被告に伝え、そう確信した村上被告が指示を出してファンドがニッポン放送株を購入した時点で、インサイダー取引が成立したとして起訴している。
だから弁護側は、11月8日の会合がいかに形だけで、無知な堀江被告が経験豊富な村上被告に「ニッポン放送を買えるかどうか」を相談、「茶飲み話」に終わっただけの実りのないものであるか、この日の証人に認めさせようとした。
(中略)
いつの情報がインサイダーなのか。
その見極めはプロでも難しい。現に企業買収の「プロ中のプロ」であることを自認する村上被告は判断を誤ったし、この日、証言したライブドア幹部も「取締役会決議など機関決定していないので、(11月8日の時点では)インサイダーの認識はなかった」と明かしている。
検察も証券取引等監視委員会もその難しさは承知のうえでの逮捕起訴だった。
「村上はライブドアを誘い込み、彼らにニッポン放送を押しつけて逃げようとした。つまり、18%も買い進んでしまったニッポン放送株買収の『出口戦略』。動機は十分だし、ライブドアが買う決断をしたというインサイダー情報を取れる立場にもある。
ただ、どこまで『本気か』を計る尺度がない。だからインサイダー取引を摘発するのは困難なのだが、こうした情報のやりとりで利益を得る『仲間内資本主義』の横行を牽制するためにも、村上ファンド事件は立件しなければならなかった」(証券監視委関係者)
もちろん、先に事件化していたライブドアの幹部が検察の聴取に素直に応じたこと、村上被告が逮捕直前の時点でインサイダー取引を認めたこと、検事調書にサインしたことなど、立件しやすい要素はあった。
しかし公判となると話は別で、「インサイダー情報か否か」を延々と争うことになるのをある程度承知で、うるさ型の村上被告の罪を問うたのは、市場に対する検察と証取委のメッセージだったのである。
では、捜査当局が嫌う「仲間内資本主義」とは何か。
「直接調達に慣れ親しんだ新興市場の若手経営者が、情報を共有したうえで、互いの増資を引き受けたり、株価を買い支え合うというインサイダー取引を平気でやっています。『ヒルズ族』はその典型。この連中にメスを入れることが、我々の07年のテーマになる」(証券監視委幹部)(後略)