記事(一部抜粋):2007年2月掲載

経 済

大義なき利上げ論議、迷走止まらぬ「福井・日銀」

【金融ジャーナリスト匿名座談会】

A 年明け早々、利上げの空騒ぎが騒々しかったね。この問題についてはいろいろな切り口がありそうだけど、第一に言いたいのはマスコミのレベルが低いということ。はっきり言って騒ぎ過ぎだ。とくに全国紙がね。
(中略)
B 金融危機が長く続いたことの弊害という面もある。とにかく、つい最近まで金利はまったく動かず、ゼロ水準のままだった。金融政策変更の取材に関するノウハウが現場から消えかけていた。
C 金利の復活は、金融政策取材の復活でもあったわけだ(笑)。
A それでも日経とNHKはどうにか、誤報となる事態は避けた。みじめだったのは朝日新聞だ。「利上げあり」とやっていたからね。
B 要するに、誰にウラを取ったかの違いが出たんだろう。はっきり言って今回は日銀の中も割れていた。とくに1月に入って、中川秀直自民党幹事長、竹中平蔵前総務大臣に代表されるアンチ日銀派の猛反発が始まってからは、利上げ慎重派のほうが多くなった。腰が引けるようになったと言ってもいいだろう。
C 利上げ機運を冷やす動きあったということだね。
B まあ、そういうこと。しかし一方では、水野温・審議委員に代表される「利上げ派」のテンションも高かった。報道は、彼らに引きずられた感じだ。なにしろ利上げ決定で特オチしたら、現場の記者たちは上司から大目玉を食らう。利上げ派が発信する情報はどうしたって無視できない。
A 問題は、福井俊彦総裁の考え方はどうだったのかだ。1月8日の政策決定会合では、結局、利上げ見送りの提案をして、利上げ派を一蹴した形になっている。福井氏は本当に利上げに消極的だったの? そんな感じには見えないんだけど。
B 福井氏はむしろ利上げに積極的だったと思うね。特に、1月、海外から帰ってきてからは、やる気が感じられた。おそらく海外の当局者とのコミュニケーションのなかで、利上げが支持されるという感触を得たのだろう。
C 福井総裁は昨年11月、世の中は利上げを織り込んでいるというような主旨の発言を講演会でしていた。利上げに対して、いやに前のめりな発言だなと思ったくらいだ。しかし、それが福井総裁の本心だろう。
B だと思うね。そうした福井氏の姿勢をみて、利上げ派の意気もあがったんだと思う。
A つまり、利上げ派が福井氏の「待て」という言葉を無視して、マスコミに利上げ情報を発信したわけではないと。むしろ2.26事件のように、大将が青年将校たちに「君たちの気持ちは分かる」と賛同の言葉を送りながら、最終的に「青年将校が勝手にクーデターを起こした」と言って逃げたのと同じような話なわけね。
B しかし冷静に考えると、利上げ派はなぜ、それほどまでに利上げにこだわったのか。そこがよく分からない。たしかに、異常に低い金利に対する焦りはあるだろう。しかし、なぜこのタイミングだったのか。
C 取材を続けていた人が分からないんじゃ困るね(笑)。
A 安倍政権を「組みやすし」と勘違いしたのかもしれないし、最大の敵と言っていい竹中平蔵氏が民間人になったことで、決行の時機到来というムードが出ていたのかもしれない。
B 今の日銀は、政府とのパイプが細い。日銀出身の塩崎恭久官房長官が数少ないパイプ役だが、率直に言って官房長官としての力量はないし、自民党内でもほとんど評価されていない。政府・与党への根回しはできない、発言力も乏しい、情報収集力も低い、そんな塩崎氏に情報を過度に依存したら、状況判断を間違うのは当たり前だ。
C うがった見方かもしれないけど、竹中平蔵、中川秀直などアンチ日銀派に、日銀ははめられたんじゃないの? 
A 日銀はいずれ利上げに踏み切る。しかも去年の7月のゼロ金利解除のときがそうだったように、日銀には独立性があるため、いくら政府や与党が利上げに反対しても、日銀は利上げを断行できる。利上げに対して議決延期請求権が行使されたとしても、日銀がそれを否決すれば、日銀の政策決定が通る。だから、そうした手段じゃない別の方法で、日銀の動きを封じ込めることをアンチ日銀派が画策したということだとすれば、嵌められたというのは、大いにありうる話だ。
C 塩崎氏は利上げ騒動が盛り上がった局面で、記者に対して「利上げについては何も聞いていない」と答えているんだが、これは考えようによっては奇妙な答えだ。なぜなら、日銀は事前に政府に政策決定を伝える義務などないからだ。「何も聞いていない」のは当たり前であって、「聞いている」としたら、そのほうが問題になる。塩崎氏があんな発言したのは、利上げ報道に慌てたからじゃないかな。
B 実は利上げ観測が高まった時点で、竹中平蔵氏の元秘書官で、いまも竹中氏と二人三脚のように行動している人物がニューヨークに飛んでいるんだ。利上げ反対の根回しをするためだったらしい。ついでにいうと、1月下旬に竹中氏とその元秘書官はスイスのダボス会議で合流している。これは極秘情報だけど、日銀を包囲する作戦が練られていたのは間違いないよ。(後略)

 

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