記事(一部抜粋):2007年2月掲載

経 済

セブン−イレブン・ジャパン

加盟店「大量脱退」の危機

 団塊世代のサラリーマンが今年から順次、定年を迎える。そのままリタイヤする人もいれば、再雇用や、あるいは別の再就職先をみつけるなどして働き続けようとする人もいるだろう。
 実はコンビニエンスストアの世界でも、それと似た現象が起きている。フランチャイズ(FC)契約の期間を満了した(いわば定年を迎えた)加盟店オーナーが、契約を更新して店を続けるか、それとも更新せずにリタイヤ、あるいは別のコンビニ本部に鞍替えしたり、まったく別の商売を始めるかの選択を迫られるケースが急増しているのだ。
 東北の某県でセブン―イレブン店鋪を経営するPさんは、今年、15年の契約期間を満了して「定年」を迎える1人だ。
「バブル時代以降、セブン―イレブン・ジャパンを筆頭にしてコンビニ各社は凄まじい出店競争を繰り広げました。私がセブンの加盟店になった1992年はそんなコンビニ大量出店時代の走りの頃です。当時の売り上げは今よりずっとよく、利益もそこそこ出ていた。今とは隔世の感があります」
 バブル崩壊直後の90年代前半、コンビニの店鋪売上高は毎年2ケタ増のペースで伸び続けた。それを可能にしたのはハイペースの出店攻勢。平成不況で百貨店、スーパーが苦戦を強いられるのを尻目に、コンビニは拡大に次ぐ拡大を続け、やがて「小売りの盟主」と呼ばれるまでになった。しかし21世紀に入ると、コンビニの成長神話は終わりを告げ、既存店売上高はここ数年、前年割れが続いている。
 コンビニ最大手のセブン―イレブンの場合、FC契約の期間は15年。他の大手チェーンもほとんどが右にならえである。つまりコンビニ高度成長期にFCに大量に加盟した「団塊のオーナー」たちが、コンビニ不況が深刻化する中、これから続々と定年を迎えるのだ。
 Pさんが言う。
 「セブン―イレブンとの契約を更新するかって? もちろん、しませんよ。こんな割りの合わない商売はもうこりごり。契約満了後は、別の商売を始める計画です」
(中略)
 関東の某県でセブン―イレブン店鋪を経営するQさんも今年、「定年」を迎える。前述のPさん同様、契約更新はしないつもりだ。
「私の場合はAタイプ(店鋪を自前で用意する契約様式)なので、セブンをやめても不動産としての店鋪は残る。それを利用して今度はヤマザキショップ(通称Yショップ)を始めるつもりです」
 Yショップは山崎製パン・グループが運営する新しいタイプのコンビニチェーンだ。セブン―イレブンなど従来のコンビニと違って、経営の主導権はあくまでFCオーナーにあり、ヤマザキのパンを仕入れてくれさえすれば、店鋪運営にはほとんど口を挟まないうえ、月々のロイヤリティは3万円ポッキリという驚きの安さなのだ。
「セブンでは月々200万円近いチャージを払ってきた。これほどバカらしいことはない。Yショップはたったの3万円ですよ。しかも店で売る商品の売価は自由に決められ、売れ残りそうな商品は半額で売ることもできる。セブンのように廃棄ロスからチャージをとられるような理不尽なこともない。来店客数が減って、売り上げが減ったとしても、利益は格段に増えると見込んでいます」(Qさん)
 Yショップは、コンビニが普及する以前には全国の至るところにあった「メーカー系パン屋」のコンビニ版と考えれば分かりやすいかもしれない。昔のパン屋は、駄菓子や日用雑貨、文房具なども取り揃え、学校帰りの小学生、中学生の寄り道場所になっていたが、その原点に戻ったようなコンセプトなのだ。
 もちろんコンビニなので、品揃えは大手チェーンに引けをとらない。山崎製パンには、ヤマザキデイリーストアという、セブン―イレブとコンセプトを同じくするコンビニチェーンがある。Yショップはこのデイリーに準じた仕入れが可能だという。しかも、オーナーにとっては負担でしかない年中無休24時間営業の縛りがなく、深夜に店を閉めたり、休日を設けることもできるという。
「うちの店は45坪ありますが、うち25坪をYショップにして売れ筋商品だけを並べ、残りは手作り弁当か、クリーニング、コインランドリーにでもするつもりです。深夜はもちろん営業しません。代わりに自動販売機を置こうと思います。セブンでは本部のいいなりにするしかなかったが、Yショップなら自分の裁量で店を切り盛りできる。やっと本来の商売人に戻れます」(Qさん)
 Yショップは現在、表立ったオーナー募集を控えている。セブン―イレブンのような説明会や、新聞広告も一切していない。山崎製パンは、セブン―イレブンを始めとするコンビニ各社に、自社の製品を大量に納めている。FCオーナーの犠牲のうえに成り立つ既存のコンビニビジネス、そのアンチテーゼともいえるYショップを宣伝することは、立場上さすがに憚られるのだろう。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】