記事(一部抜粋):2007年1月掲載

連 載

貸し渋りは本当に起きるのか

【岐路に立つ消費者金融】中川一博  

(前略)
 貸金業者はいま、傷がこれ以上深まる前に撤退するか、それとも石にかじりついてでもカネ貸し稼業を続けるかの選択を迫られている。後者の道を選んだ場合には、業者は生き残りをかけて、今まで以上のモーレツ営業に突き進むだろう。法の抜け穴を探して利益を追求するのが貸金業者の真骨頂であり、実際、今までもそうしてきたからだ。
 貸金業法は、業者側の「自主規制」に頼る部分がまだまだ多く、法改正の効果が正しく発揮されるためには、行政による厳格なチェックが欠かせないというのが、今回成立した法律の条文を読んだ私の正直な感想である。
 たとえば年収の3分の1以上の貸し付けを禁止するという「総量規制」。消費者金融のコアな顧客層である年収300万円以下の個人に対して、総額で100万円以上は貸せなくなることを意味しているわけだが、その実効性には疑問が残る。私の経験からいっても、消費者金融業者には「とにかく貸したい、そのためには何でもする」というDNA(遺伝子)が抜き難く刷り込まれているからだ。
 大手消費者金融がテレビCMなどで「借りすぎに注意しましょう」「収入と支出のバランスを考えて」などと優しく囁く言葉が、業者の本心であるなどとは、さすがに今どき誰も思ってはいないだろう。読者の皆さんはおそらくこう思っているのではないか。「筆者(私のこと)は、業者は貸すためなら何でもするというが、返済能力を超えて貸しこめば貸し倒れの危険があるので、業者としても無理な貸し付けはしないはず。上限金利が下がればなおのこと、リスクのある貸し付けはしないだろう」。
 至って真っ当な見方で、これは「上限金利の引き下げが貸し渋りにつながる」とする、この間のマスコミの論調にも通じるものである。だが、業界に長年身を置いた者として率直にいうなら、「貸し渋り? 何それ」である。
 消費者金融業者が借りたがっている客に貸さないケースは、私の知る限りほとんどない。もちろん、信用情報センターのブラックリストに載っている場合は別だが。
 消費者金融業者が貸し渋りとは無縁の存在であることを示す格好の事例を、共産党の大門実紀史議員が12月5日の参院財政金融委員会で取り上げている。同議員によると、2006年6月、武富士の松山支店(松山市)の社員が、借り手に年収や家族構成を偽った申込書をつくらせ、融資可能額を不当に増やしたという。
 このときの借り手は女性で、子供が1人いる母子家庭。収入を実際より多く申告させ、子供もいないことにして申込書を書かせていた。審査基準を不正にクリアした「過剰貸し付け」であり、行政処分の対象だと追及した大門議員に対し、金融庁の三国谷勝範・総務企画局長は「事実関係を把握したうえで、処分に足る事実があれば適切に対応する」と答弁している。
 武富士広報部は「事案を特定できないのでコメントしようがない」としているが、こうした過剰融資は、誤解を恐れずにいえば業界の常識(世間の非常識)であり、同様の事案は武富士ならずとも数限りなくあるとみて間違いない。
 消費者金融の全国の営業店は、本社から貸付ノルマを与えられ、それを何としてでも達成しなければならない立場にある。達成度合いは社員の給与に直接反映される。皆、貸し渋りなど考えることなく、できる限り多く借りてもらうよう手段を尽くすのだ。
 たとえば借り手の審査を行う際、本人であることを証明するために健康保険証を持参してもらうが、国民健康保険か社会保険かで、貸せる金額に違いが出る。国保なら申告した月収の12カ月分を年収とするが、社会保険ならボーナスがあると想定して16カ月分として扱う。
 そこで保険証を持参しなかった借り手には、「保険証は何色ですか?」「社会保険でいいんですよね」と、実際には国民健康保険であっても社会保険に加入しているものとして申込書に記入させるのだ。
 収入金額を証明する給与明細を借り手が持参してきた場合でも、「要りませんから」といって返してしまうことがある。そして実際より多く収入を見積もってスコアリングする。いうまでもないが、そのほうがよりたくさん融資できる。
 このように消費者金融の営業店の現場では、ノルマを達成するために、いかに多く貸すかに日々、腐心している。
 私は現役時代、社内規程を守って指のないヤクザへの貸し付けを断ったところ、上司から「なぜ貸さないんだ」と叱責されたことがある。犬でも猫でも借りてくれる相手がいたら貸すというくらい、この業界は「貸したもの勝ち」の世界なのだ。大門議員が取り上げた事例はむろん、氷山の一角にすぎない。(後略)

 

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