旧国鉄から分離民営化されて2007年4月1日で満20年を迎える「JR東日本」。連結売上高2兆5923億円(06年3月期、以下同)、経常利益2746億円、社員総数7万3000人を擁する、世界最大級の公共輸送会社である。政府関係機関の持ち株は段階的に全て放出され、いまや純然たる民間会社。外国人の持ち株比率も30%に達し、日本を代表する優良会社として海外投資家からの評価も高い。民営化後の運賃値上げもなく、我々国民としてもご同慶の至りである。
だが、この優良企業にもアキレス腱がある。06年7月から『週刊現代』が「テロリストに乗っ取られたJRの真実」と銘打ち、20回以上にわたって同社労使の異様な関係にメスをいれる連載を続けているのがその1つだ。12年前にも『週刊文春』が「JRに巣くう妖怪」と題して当時のJR東労組中央執行委員長・松崎明と経営サイドの癒着を攻撃して大騒ぎになった。今回の『現代』の連載はその延長戦といえる。
前回の文春のキャンペーンでは、JR東日本が系列の販売店キオスクでの同誌の取り扱いを拒否するという兵糧攻めに出たことで、キオスクを主要販路とする文春は連載四回めでギブアップした。しかし今回、JR東日本は週刊現代の車内吊り広告を拒否した程度で、長期にわたる煩わしい攻撃にもかかわらず、その対応はいたってソフトなものである。
妖怪と名指しされた松崎は、1994年に組合委員長を退任して以降も隠然たる力を保持しているといわれるが、往時と比べると、その影響力にも陰りが見えてきたということなのか。
極左集団・革マル派との関係が指摘され、JR東日本の経営に暗い影を落としてきた松崎はまさしく妖怪であるが、同社にはもう1人、妖怪と形容するのがふさわしい人物がいる。
民営化以来20年、松崎の跋扈を許してきた「もう一人の妖怪」の名は住田正二。87年に発足したJR東日本の初代社長である。
93年4月に代表取締役会長に昇任、96年に会長職を退いた後も2000年6月まで取締役最高顧問を務めた住田は、現在も、肩書こそただの「相談役」だが、新宿本社ビル最上階の役員フロアに専用個室を構え、毎日のように「出社」している。今もJR東日本に君臨しているのだ。
大正12年の生まれだから御歳85を数えるが、相変わらず専用の秘書と運転手付きの高級乗用車をあてがわれ、高額の報酬が支払われている。社主、オーナーさながらの扱いなのだ。
JR東日本の現役役員にいわせると、「いまだに隠然たる力を感じさせるカリスマ経営者」だそうで、会社にとって年間5000万円以上の負担になっているものの、誰も「勇退」を進言できないという。(後略)