記事(一部抜粋):2006年12月掲載

連 載

【狙われるシルバー世代】山岡俊介

「医療」「福祉ビジネス」にも触手を伸ばす「株の仕手筋」

     
(前略)
 では、人気のある病院や医者がベターかといえば、後述するケースのように決してそうとも言い切れない。特に自由診療で、マスコミにやたらと取り上げられている人気先行の病院や医師も、むやみに信用してはならない。
 さて、実例を見てみよう。
「佐和会」という医療法人社団がある。現在、この法人は登記上は東京都中央区の某雑居ビル7階に入居していることになっている。
 だが、その部屋を訪ねても看板すら見当たらない。経営難の末、すでに実態がなくなっているのだ。
 同じ部屋には、Y社なる不動産売買や経営コンサルタントを行う株式会社がある。実はこのY社の社長は広域暴力団山口組系元組員で、複数の逮捕歴がある。現在は株の仕手筋の世界で有名な人物である。
 世間には、上場していても長年業績不振で、実質、闇世界に牛耳られてしまった企業がたくさんある。この数年の間だけでも、丸石自転車、日本LSIカード、駿河屋、プライムシステム、アドテックス、メディアリンクスなど、アングラ人脈に食いものにされた結果、上場廃止になった企業は数多い。
「これら企業の社長やオーナーは、上場廃止にならないように決算を粉飾し、増資を行っては資金を調達する。しかし、長年業績不振の会社に出資するような投資家などいない。そこで暴力団など闇社会の資金が投入される。彼らが資金を出すのは、高い金利を取るだけでなく、増資に応じて得た株を株価操作をしたうえで一般投資家に小分けして引き取らせ、自分たちが高値で売り抜けるためです」(大手社会部記者)
 実はY社の社長はこうした株取引の仲介をやっている。その動向を追う警視庁関係者が漏らす。
「奴の以前の金主は山口組系K会。現在はNという番頭を通じて稲川会系Y組だ。丸石自転車、アドテックス、東理ホールディングス(同社は現在も上場維持)などで仲介していたことを確認している」
 では、なぜこんな人物が医療法人に関わりを持つのか。
「奴らは儲かれば何にでも手を出す。株で得た資金の再投資先として病院乗っ取りにも手を貸す。そのどん欲さに限りはないんだ」(同)
 この連載の14回、17回目で、「新田グループ」という病院乗っ取りグループの実態を報告した。診療報酬の権利を担保に取り、経営権を奪って利益を吸い上げる。その挙げ句、うまみが少なくなったら、病院の手形や小切手を乱発して換金して逃げる、というのが彼らの手口だ。もちろん、その場合には病院は倒産してしまう。
 新田グループは前出の丸石自転車にも介入しており、このとき同グループは「介護は儲かる」といって、倒産しかけの「松嶺会」という医療法人社団との提携話を持ちかけている。結局、丸石側は資金を取られただけで、松嶺会はほどなく倒産してしまった。
 グループ代表の新田修士(現在、収監中)は山口組との連携が指摘される人物だが、実はこの新田グループとY社社長は顔見知りだったのだ。  
 佐和会はかつては「日大前診療所」(千葉県船橋市)、「東日本クリニック」(岩手県岩手郡)などを経営していたが、経営不振から新田グループの傘下に入る。2001年ごろのことだ。その際、新田グループの岸本和博氏が理事長に就任している。この連載の5回目で取り上げた、有料老人ホームに入る際に必要な一時金がない方のために、「死亡保険金」を担保にした高齢者専門の消費者金融会社設立計画を立て、金主探しに駆け回っていた人物である。
 岸本氏は元々は都庁の職員。04年には『特養ホーム/メディケアホーム』(明石書店)というもっともらしい内容の著書も出している。東京・江東区南砂1丁目の自宅マンションを筆者は訪ねたことがあるが、そこには別名の表札がかかっていた。岸本氏は、借金苦の挙げ句、都庁を退職したらしく、自宅は01年12月に税金滞納のため都より差押えを受け、03年4月には住宅融資保障協会の申立により競売開始決定が出ていた。
 この岸本氏に高齢者向け「死亡保険金」の計画を持ち歩かせていたのはU氏なるブローカー。かつて「ゆうゆう120」の社名で有料老人ホームを経営していたこともある人物だ。U氏も暴力団とのつきあいがあり、04年には、ファンド詐欺(出資法違反)で元北海道・沖縄開発長官まで務めた稲垣実男が山口組系後藤組幹部らとともに逮捕されている。その会社は「キャピタルインベストメントジャパン」といったが、U氏は当時、同社の監査役を務めていた。
 ところで、このU氏とやはりつきあいがあったのが、本紙で何度もその実態を取り上げてきた、関東圏では有数の規模を誇る有料老人ホーム大手「ベストライフ」(東京都新宿区)の長井博實オーナー。
 そして、この長井氏と前出・Y社社長の間にも奇妙な接点があった。Y社社長がアドテックスなる上場企業(当時)の増資引き受けに関係していたことは前述したが、ベストライフも同社の別の増資を引き受けていたのだ。
 ベストライフはその後、株式を買い増しし、現在、アドテックス株の過半数以上を取得している。もっとも、この10月6日までに警視庁組織犯罪対策3課は粉飾決算容疑でアドテックスの家宅捜索を行い、経営再建・再上場の目論見は崩れてしまった。
「ベストライフ側がアドテックスに投じた資金は数十億円にもなる。同社を食い尽くしたのは山口組系K会で、長井氏はK会が推す現経営陣の退陣を要求していたから、被害者といえば被害者です。しかし、匿名の投資事業組合を通じて経営がガタガタのアドテックスに投資したわけで、法律には違反していないものの、仕手化を狙っていたとしか思えない。その後、株券の価値がなくなったから仕方なく経営介入し、再上場を目論んだわけで、同情には値しない。むしろ、介護に携わる者が、こんなバクチのようなことをやっていることのほうが道義的に批判されてしかるべきです」(事情通)
 そもそも介護事業のベストライフは、そのような余剰資金をどうやって生み出しているのか。同社をめぐっては合理化名目の職員組合との対立、系列精神病院患者の死亡率急増、老人ホームの工事代金支払いトラブルや建築構造上の消防法違反など数々の疑惑が上がっているのだ。(後略)

 

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