「ハロー、コムスン」のCMでお馴染みの老人介護大手「コムスン」(樋口公一社長)に、子会社の「架空増資疑惑」が持ち上がっている。
今年7月、コムスンは有料老人ホーム運営の「日本シルバーサービス(NSC)」を買収、子会社化したが、NSCの創業者である越智哲男氏が「NSCが過去に行った増資は架空増資で無効。自分こそNSCの大株主である」として、NSCおよび同社の旧経営陣を相手に株式の所有権確認訴訟を起こしたのだ。越智氏の主張が真実なら、コムスンは「ニセ株主」からNSC株を買い取ったことになる。
(中略)
コムスンが買収発表をしたのは今年7月。その際、同社は「NSCを100%子会社にした」と発表しているが、実際には全16万株のうち、越智氏側の女性役員が保有している1万株は未買収である。買収した15万株についても、創業者が「増資は無効で、当初預けた四万株はそもそも自分のもの」と主張している。こんなトラブル会社を、コムスンはなぜ敢えて買収したのだろうか。
「コムスンは訪問介護が主力で、ハコモノ(有料老人ホーム)運営では後発です。国や自治体からの補助があり、安定した介護保険収入を見込める有料老人ホームは、確実に利益が期待できるために全国的に新規参入が相次ぎ、国や各自治体の財政を圧迫してきた。そのためこの4月から、各自治体はホームの新設を制限しているほどです。この新設規制によって、老人ホーム事業を積極的に展開しようとしていたコムスンは、老人ホーム事業を拡大するにはM&Aしか選択肢がなくなった。NSCのような会社は喉から手が出るほど欲しがっていたはずです」(業界関係者)
高齢化の進展を背景に、介護保険制度に基づく「要介護認定者」は05年時点で425万人と、この5年で約7割も増えている。食事や介護のサービスを受けられる有料老人ホームへの入居を希望する高齢者の潜在需要は大きく、これまでに多くの業者が老人ホーム事業に進出を果たしてきた。
「NSCは、いわゆる『介護バブル』に乗って業容を拡大させてきた典型的な業者です。なにしろ老人ホームを1棟つくり、そこに100人の老人が入居したとすれば、入居一時金が1人頭1000万円として10億円のキャッシュが入ってくる。施設の建設には行政の補助金が出るし、月々の介護保険収入も安定して見込める。経費を抑えて運営すれば、確実に利益が見込める割りのいいビジネスなのです」(業界関係者)
老人ホームの経営者の中には、にわか成り金となって贅沢三昧の生活を送る輩も少なくないといわれる。
「その一方で、ホームの現場で日々、老人介護にあたっている職員には薄給しか与えない。しかも経費節約のために、入居者の人数に応じて定められている職員定数をごまかし、少ない人数しか配置していないケースがザラです。職員が少なければ、それだけ入居者が受けるサービスの質は低下する。とくに夜間の職員数を削る業者が多く、緊急事態に対応できないこともしばしば。入居者の異変に職員が対応できず、結果として死に至らしめてしまううケースにも時おり遭遇します」(NSCにも出入りする葬儀業界関係者)
誤解のないようにいえば、NSCの老人ホームがそうした低サービス施設だというわけではない。ただ、中には老人福祉を食いものにしているとしか思えない業者も残念ながらいるということである。(後略)