記事(一部抜粋):2006年11月掲載

社会・文化

ライブドア裁判で場外乱闘

「堀江VS宮内」で「事件の本質」は置き去りに

 堀江貴文被告と宮内亮治被告との対立構図が鮮明となっているライブドア事件の公判において、今、最も注目され「男をあげている」のが高井康行弁護士だろう。
 検事出身の「ヤメ検」で、堀江被告の弁護人。弁護人が被告の利益のために、マスコミに対して事件背景を説明することはある。ただ今回、高井弁護士はより積極的だ。テレビ番組に出演、単独インタビューに応じる一方、新聞雑誌の記者とも懇談する。そこで新事実を積極的に開示、「堀江無罪」の方向にマスコミを誘導しようとしている。
 高井弁護士の主張をひとことでいえば、「ライブドア事件は検察の謀略」というものだろう。
 ファンドを利用した自社株売却益の損益計上は合法で、架空売り上げの計上は部下に一任しており、本人にその認識はなかった。事件の本質はライブドアの資産収奪を狙った宮内被告らの背任横領であり、その事実をつかんだ検察は、宮内被告らと取引、無罪の堀江被告を事件の主犯とした――。
 ニッポン放送株買収、プロ野球進出、衆院選出馬と、堀江被告は話題を振りまいてきた。普通に考えればライブドアはホリエモンに「帰属」する会社であり、ナンバーツーだったとはいえ「黒子」に過ぎない宮内被告が「事件の主役」といわれても腑に落ちない。代表取締役社長が「私は知りませんでした」は通らないだろうという一般常識もある。
 ただ、高井弁護士の堀江公判に向けての準備とマスコミ利用の戦術は秀逸だった。堀江公判のヤマ場は、9月15日から始まった宮内被告の証人尋問だったが、その前に検察側の「過失」を表に出した。
『週刊朝日』(9月22日号)で、作家の宮崎学氏のインタビューに応じた高井弁護士は、起訴事実に人材派遣会社のトライン買収を加えなかったところに、「検察側の論理破綻がある」と主張している。
「もしも検察の描く仕組みが正しいとすれば、この2億6600万円は最終的にライブドアに還流しなければならない。しかし、現実には、その6割以上の1億6600万円が還流していません」
 検察側の主張は、投資ファンドはライブドアのダミーで、その目的は決算を粉飾するためだというもの。ところがトラインでは、株式交換で得た新株を売却して利益を出しているのに、その六割は還流していない。この事実を表面化させないために、検察はトラインを省いたというのである。
 では1億6600万円はどこに行ったか。ここに高井弁護士の「隠し玉」があった。
「約1億6600万円のうち1300万円は、PSI(亡くなった野口英昭エイチ・エス証券副社長が香港に設立した会社)に送金されており、残る1億5300万円は、故野口氏の指示で宮内被告らが香港につくった『パイオニア・トップ・インベストメント』という会社に振り込んだということでした。これらはすべて堀江被告の全く知らないことです」
 耳目を集めた事件だけに、公判の様子は報道されることが多く、「堀江VS宮内」の対立は、関心のある向きには広く理解されている。その構図が、高井弁護士のこの説明には集約されている。
 会社のPR係としてマスコミにホリエモンが登場、人気を集めていた裏で、会社幹部らによる資産収奪が進んでいた。そのことを知らなかった堀江被告――高井弁護士はその後の法廷で「バカ殿」と、堀江被告をヤユしてまで「無垢」を浮かび上がらせようとした。
 確かに、高井弁護士の宮内被告を「黒幕」として追い詰める戦術は成功した。『ヒルズ黙示録』の著者で、この問題に精通する『AERA』の大鹿靖明記者が、同誌上で検察の裁量捜査を批判していることもあって、報道は弁護側優位に進んでおり、そうした自信もあったのか、高井弁護士は公訴棄却を申し立て、捜査の指揮を取った東京地検特捜部長の証人尋問を要求した。
 法廷外でマスコミを巻き込み、検察を攻撃する高井弁護士への批判はある。
「いくら被告のためとはいえ、公判の前にマスコミにリークするなどパフォーマンスが過ぎる。それに、検察を批判するのはいいが、宮内被告らを背任横領犯のように攻撃するのはいかがなものか。重要証人の野口氏は死んでいる。犯罪をどう立証するというのか」(検察関係者)
 確かに、「振り込まれたカネは野口氏から借りたもの」という宮内被告らの弁明には無理がある。とはいえ、いったん野口氏の口座を経由しているだけに、野口氏の「了承」を疑わせる証拠もない。
 なにより問題は、この公判が宮内被告らの背任横領を裁く場ではないということだろう。個人攻撃が嵩ずれば、今度は堀江被告の会社資産収奪の証拠も出てきかねない。
 宮内被告と中村長也被告(ライブドアファイナンス元社長)が、クレディ・スイスから借りたというカネで、2000万円ものフェラーリを購入していたことが象徴するように、堀江被告も含めライブドア経営陣は金銭感覚を狂わせ常軌を逸していた。
 そうなったのはなぜか。株券を刷れば利益が上がり、それが株価を上げてM&Aのためのバイイングパワーを増し、売り上げと利益と時価総額の右肩上がりが続くという錯覚に陥ったからである。
(後略)

 

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