記事(一部抜粋):2006年11月掲載

経 済

地銀「隣県統合」が待ったなし

見えてきた「足利銀」の着地点【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)
C たしかに隣県同士の地銀と第2地銀が経営統合するというのも、ひとつのシナリオだ。たとえば、宮城県と福島県で、そういうムードが漂っている。
A 宮城県の七十七銀行と福島県の大東銀行、福島県の東邦銀行と宮城県の仙台銀行の組み合わせのことを言いたいのだろう。たしかに七十七と東邦がひそかに交渉しているという情報がある。
B 福島銀行はどうなの?
C 福島銀行は労働組合が強いから、なかなか他の銀行は近づけない。
A しかし何といっても、地銀問題のメインテーマは足利銀行だろう。少し前までは、小泉政権の与謝野馨金融担当大臣の実績として、足利銀行の買い手を決定するといわれていたが、結局、そうはならなかった。それどころか、いまは決着が付くのは来年春以降と言われている。いったい何があったのか。
B いろいろな話が飛び交っているね。足利銀行は北朝鮮向け送金などの問題を抱えていて、その話もぶり返している。想像力が若干たくましすぎると思うけど。
C この間の動きを振り返ると、足利買収には、いつくかのグループが名乗りを上げようとしていた。栃木銀行をコアにした地元グループ、有力地銀が団結した地銀グループ、野村プリンシパル・オリックス連合などだ。地元グループには大和証券、地銀グループには日興シティ証券が加わった。これらの外円部分に外資の動きもあるという構図だ。しかし、これらのなかでも微妙な変化が起きつつあった。たとえば、野村プリンシパル・オリックス連合は、この間の村上ファンド問題を巡るオリックスの不評があって、オリックスが出資から議決権のない劣後性資金の拠出へと切り替えざるを得ない雰囲気が濃厚になっていた。そうなると、この連合は弱い。そこで、他社を連合に招きいれようと水面下で画策した。一部の有力地銀などに声をかけたという情報がある。
A 地元グループも資金的に弱いので、他社に声を掛けまくったようだね。その結果として、足利買収を巡ってはきわめて大勢の企業が一口乗るという形になりつつあったようだ。
C 問題はそこにある。あまりに大勢が参加するという状況になってしまい、しかも、それぞれが独自に政治力を使い始めた結果、事態が混沌としてしまった。
A 要するに収拾が付かなくなった。
C そうなんだ。金融庁は当初、与謝野前大臣の下で決定しようと考えていたが、それができなくなった。金融庁の判断で決定すると、「恣意的」「独善的」などという批判が起きる。金融庁は、自らに傷が付くことを恐れた。役人の本能だね。
B 結局、足利買収候補を査定して決定するという委員会のようなものを作り上げて、そこに決定を任せるという形式を取らざるを得なくなったんだ。
A なるほど、そういうことか。だから最近、五味廣文・金融庁長官や佐藤隆文監督局長が「われわれも足利のステークホルダーだ」などと言って、言葉を控えめにしているわけだ。
B しかも、安倍政権では地元の栃木県選出の渡辺喜美・衆議院議員が金融と経済財政担当の副大臣に就任した。蛇足だが、金融担当大臣の山本有二議員、経済担当大臣の大田弘子氏よりも、それぞれの副大臣を務める渡辺議員のほうが、よほど大物だ。大物が2つの大臣ポストを兼任して、それぞれのポストの下に各副大臣が就くのが通常のパターンだから、きわめて変則的な人事になっているのはちょっとした見所だ。
A 確かに、渡辺議員の副大臣就任は大きな要素かも。足利銀行の県民銀行構想の中心的な人物のひとりが渡辺議員にほかならない。そんな大物副大臣を差し置いて、勝手に金融庁の役人たちが選定するわけにはいかないのだろう。
B 足利の買い手の公募は11月中旬までに行われるようだ。それから、査定ワーキングで各候補者を吟味して、早ければ来年3月ごろに結論、つまり、買い手を決定するというスケジュールになっていると金融庁関係者は言っていたが。
A そのスケジュールは分らないよ。もっと遅れる可能性もある。
C 1年もかければ、名乗りを上げた企業群の中にはトーンダウンしてくるところも出てくる。事情が変わって、取り下げるような企業群も出るかもしれない。
A そのうち来年の金融庁人事のタイミングになって、五味長官が退任し、「最終決定は次期体制で」なんてことになるかもしれないよ。あるいは、来秋の参議院選挙後の内閣改造人事の後にまでずれ込むようだと、相当先のことになる。
B 金融庁が急ぐ必要はなくなったという面もある。一時期、足利が国有化された後、「足利は2度は潰れない」ということで、栃木銀行から足利へと預金がシフトする動きが強まった。足利問題から栃木銀行問題になりかねなくなって、そのときは県民銀行化も検討せざるをえなかった。しかし今はそんな状況ではない。
C 結局、非常時じゃなくなった結果として、手続きを重んじなくてはならなくなったということだろう。非常時には、手続きなど重視しなくても、「危機を脱するためだ」といえばそれでよかった。いま振り返ると、金融危機の局面では場当たり的行政対応がけっこうあった。竹中平蔵氏が金融担当だったころは特にそう。大手銀行への公的資金注入政策だった金融改革プログラムといい、りそな銀行の準国有化といい、実にいい加減なものだった。りそななど早期是正措置という制度があったにもかかわらず、それを活用せずに、公的資金へと突き進んだ。しかし今は、九州親和がいくら経営内容が悪くても、公的資金は注入できないだろう。公的資金注入となれば、「これまで金融庁の検査は何をしてきたのか」と国会で叩かれる。
B そこは金融庁に同情するね。九州親和を処理したくても、できない事情があった。しかし、事情があったとしても国会では責任を追及される。だから福岡銀行が九州親和を自主的に出資するという演出をした。
A それすらできなかったのが和歌山銀行と紀陽銀行を処理したケースだ。
C 問題は、これからもそういうケースがあるのかどうかだね。
A 地域金融機関では「リレーションバンキング政策」が今も続けられている。これは早い話が竹中大臣時代に導入されたダブルスタンダードの金融行政で、地域金融機関には大手銀行のような不良債権の最終処理を迫らず、引当処理、担保保全などをしたうえで銀行が債権を抱きかかえておくことを許した。地方の経済危機を回避するためだ。つまりリレーションシップバンキングを取りやめたときが問題ということになる。(後略)

 

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