記事(一部抜粋):2006年9月掲載

社会・文化

 全てのノルマは不祥事に通じる

【岐路に立つ消費者金融】 中川一博・元武富士法務課長

(前略)政府内で上限金利引き下げの議論が大詰めを迎える中、それにタイミングを合わせるように、消費者金融各社の不祥事が相次いで表面化している。全店業務停止という厳しい処分につながったアイフルの違法営業。過払い請求に対し、提出資料を改竄した三洋信販。そしてアコムでも過剰貸し付け規制を不正に逃れた疑いなどが浮上、金融庁の立ち入り検査を受けると報じられている。東京三菱銀行と業務・資本提携を結び、その信用力を背景に業績を伸ばしてきたアコムでも不祥事が発覚したことで、消費者金融業界に対する逆風は、さらに強まるのが必至である。
 とはいえ、こうした業界の問題行為はなにも今に始まったことではない。貸し付けを可能なかぎり増やし、利息収入を極大化するためには手段を選ばない――というのが、誤解を恐れずにいえば消費者金融業界の「体質」である。
 たとえば三洋信販で発覚した過払い資料の改竄。実は武富士でも過去に同様のケースがあり、法務課長だった私はその一部始終について報告を受ける立場にあった。
 債務者側の弁護士が取引記録の開示を求めてきたとき、債権管理の担当者が意図的に記録を改竄。それに気づいた債務者側の弁護士から強硬にクレームをつけられたことがある。これが表沙汰になったら一大事。当時の近藤常務(現社長)が担当者を厳しく叱責する一方、相手弁護士に詫びを入れてことなきをえた。
 担当者が資料の改竄に手を染めたのはなぜか。理由は「ノルマ」に尽きる。私はそう思う。
 武富士では、支店はもちろん、本社の管理室でさえ部署ごとに貸し付け額や回収額のノルマが定められており、それが達成できなければ、人格を否定されるほどの厳しい叱責と罰則が待っている。資料を改竄した本社の担当者は、そのまま過払い返還金を支払ってしまったらノルマが達成できなくなると脅え、ついつい違法行為に手を染めてしまったのだ。
『毎日新聞』(8月15日付)が《消費者金融の大手五社を含む10社が債権回収のため借り手全員に生命保険をかけて掛け金を支払い、死亡時の受取人になっていることがわかった》として、その債権回収手段を批判する記事を掲載しているが、この問題の根っこにあるのも、業界特有のノルマ信仰である。
 記事にあるように、借り手の多くは自身の命が担保にされている事実を知らないまま契約を結んでいる。大手各社は「債務が遺族に残って負担にならないようにするための保険」だと説明しているが、この言い分ははっきりいって詭弁だ。なぜなら、借り手本人が亡くなった場合、その債務を遺族が相続しないかぎり、遺族には返済の義務などないからだ。
 遺族の負担云々を持ち出すこと自体、消費者金融各社が、貸金業規制法で禁じられている本人以外の家族からの取り立て行為を、債権回収の有力な手段として黙認していることの証拠なのだ。
 借り手に生命保険をかけることは、遺族の負担軽減が目的なのではない。毎日の記事で紹介されている、消費者金融の元女性社員の次の言葉がそれを如実に物語っている。
「客が自殺すると初めはショックでした。でもだんだんと『あ、死んだ』と。(債権回収の)ノルマがすんでほっとするみたいな」
 消費者金融各社には、返済が滞って貸倒償却した延滞債権や時効債権を、管理・回収する部門がある。償却がすんでいるから、回収できた分は「営業外利益」としてそっくり会社の利益になる。
 実はこの債権管理部門にもノルマがあり、武富士本社の債権管理室ではたしか年間80億円ほどの目標値が定められていた。しかも、その約3分の1が死亡債権の回収目標とされていたため、担当者は「死亡」と記載された住民票の取得に躍起となっていた。つまり債務者の自殺と、ノルマの達成は表裏の関係にあるということだ。(後略)

 

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