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【企業研究】ファミリーマート
スーパーの通常小売価格より高いコンビニの仕入れ原価
この7月26日、福島県会津若松市の漬物メーカー「会津天宝醸造」の本社事務所を、福島地裁の裁判官を含む一行が訪れた。ファミリーマート元加盟店オーナーの申し立てを受けて同地裁が下した「証拠保全決定」に基づき、会津天宝に保管されているはずの証拠を押さえるのが目的だった。
証拠保全とは、訴訟を起こすにあたって、被告側が証拠を隠滅しないよう、前もって重要証拠を保全するよう裁判所に申し立てる制度のこと。裁判所がその申し立てを認めれば、申立人は裁判官同席のもと、証拠があると思われる現場に出向いて、それを検証することができる。
この日、会津天宝を訪れたのは、裁判官、事務官のほか、申立人の元ファミリーマート・Jフィールドひろの店(福島県広野町)オーナー、菅野克之氏とその代理人である佐藤剛志弁護士。保全しようとした証拠とは、2005年10月1日から06年2月1日の間に会津天宝がJフィールドひろの店に納品した漬物パックなどの商品に関して、会津天宝とファミリーマート本部が取り交わした書類(商品原価が記載された書面など)等である。
菅野氏はなぜ、証拠保全を申し立てたのか。
「我々フランチャイズ加盟店は、本部と対等の立場ということになっていますが、現実には本部の指示に忠実に従って店を運営しているのが実態です。陳列する商品にしても、本部が推奨する仕入れ先から言い値で仕入れており、その仕入れ代金は、我々が本部に毎日送金している売上金の中から、本部が業者に支払っています。ですが日々商売をしている実感からすると、仕入れ代金が高すぎるのではないかという疑念が拭えません。我々加盟店が本部を通じて支払っている仕入れ原価は、納入業者が本部に請求している金額と本当に同じなのか。もしかすると、本部が我々に示している『原価』と実際の原価には乖離があり、その差額を本部はピンハネしているのではないか。それを確かめるために、証拠保全を申し立てたのです」
本部が加盟店に告知している「仕入れ原価」をめぐっては、ファミリーマートだけでなく他のチェーンでも「高すぎる」「不透明」との批判が根強くある。そのため一部の加盟店は、納入業者が本部に交付したはずの仕入れ代金の請求書(電磁的記録を含む)や領収書(同)を開示するよう、執拗に要求し続けている(開示を求めて訴訟を起こしたケースもある)。
これに対する本部側の対応は各チェーンともほぼ共通している。ファミリーマートの説明はこうだ。
「本部、加盟店、納入業者は最新のシステムによってネットワーク化されており、データはペーパーレスでやり取りされています。そのため書面としての請求書、領収書といったものは存在しないが、加盟店に交付している納品伝票明細書などの書類やデータによって、納入業者からの請求額、それに対する支払額の内訳が分かるようになっている。ごく一部の人たちを除いて、大半の加盟店はそれで納得しています。もし加盟店ごとに、あるいは納入業者ごとにそうした帳票類を発行するとなると、きわめて繁雑な作業が必要となり、せっかくの効率的なシステムが無駄になる。加盟店にコスト負担を強いることにもなりかねません」(広報部)
つまり、書面としての請求書、領収書は存在しない、だがシステムはきちんと機能している、だから本部を信用してくれ――というわけである。だが、本部に不信感をもつ加盟店が、こうした説明だけで納得するとも思えない。
証拠保全決定に話を戻そう。結論からいうと、元加盟店オーナー・菅野氏の会津天宝への訪問は空振りに終わった。現場に同道した佐藤弁護士によれば、会津天宝は「守秘義務」を理由に、菅野氏が求めた証拠の開示をすべて拒否したという。証拠保全決定には強制力がないのだ。
だが会津天宝の担当者は「これなら見せてもいいか」と言いながら、一揃えの書類を一行の前に差し出したという。
「それは、会津天宝とファミリーマート本部との06年1月分の取引に関する帳簿でした。見ると書面の左端に店コード、続いて日付、商品コードと思しき数字があり、右端に合計金額が記されていた。ぺらぺらとめくっていると菅野氏の店コードを発見しました。それを指摘すると、同席していた裁判官が『申立人の店舗に関する部分がある。その部分をコピーさせてもらえないか』と会津天宝側に要請しました。相手は最初『別に構わないですが……』と応じる様子でしたが、結局コピーは控えてほしいということになったのです」(佐藤弁護士)
しかし、コピーはできなかったものの、佐藤弁護士は書類の一部の数字を記憶したという。
「菅野氏の店の今年1月2日の欄の合計金額が4ケタの数字で、上2ケタが25であるのが確認できました。つまり会津天宝の帳簿では、同社は1月2日、菅野さんの店に25××円分の商品を納入したということです。ところが事務所に戻り、菅野さんの店の納品伝票明細書で会津天宝からの仕入れ状況を確認したところ、その日の仕入れ原価の合計は3195円でした」(同)
会津天宝が、菅野氏の店舗に納品した商品の対価としてファミリーマート本部に請求した金額は25××円。本部が菅野氏に示した仕入れ原価は3195円。佐藤弁護士の記憶に間違いがなかったとすれば、この差額をどう考えればいいのか。
一部の加盟店の間で噂されるように、本部が仕入れ代金をピンハネしているのか。もしそうなら、その収入を本部はどのような名目で計上しているのか。(後略)