最後に狂った「小泉シナリオ」
安倍取り込みを目論む守旧派【永田町25時】
「厳しい権力闘争になる」と小泉純一郎が予想した自民党総裁選は、拍子抜けの展開となった。8月中旬までに最大派閥の森派、第2派閥の津島派が安倍晋三支持で固まり、雪崩をうつように丹羽・古賀派、伊吹派、高村派、二階派が安倍支持を打ち出した。圧倒的な党員人気を考えると、9月20日の選挙結果を待つまでもなく、15人しかいない谷垣派をバックに戦う谷垣禎一、11人の河野グループ所属の麻生太郎の惨敗は確実だ。
小泉は頭を抱えている。描いていた総裁選の構図が大きく崩れてしまったからだ。
小泉が期待していた安倍政権の姿は、「自民党をぶっ壊す」という小泉路線の完成だった。安倍の支持基盤は小選挙区になってから当選した4期以下の議員。党内の7割を占めるそうした中堅・若手をバックに総裁選を戦えば派閥単位の動きを蹴散らせる。派閥を仕切る森喜朗、青木幹雄、古賀誠らは反安倍に回るだろうが、自民党内に残る守旧体質を一掃してこそ小泉改革路線の維持は可能になる。
青木、古賀、二階俊博、山崎拓、武部勤、高村正彦、丹羽雄哉。こうした面々はいずれも小泉の靖国参拝に反対する親中派だ。小泉が8月15日の参拝を断行すれば、小泉路線を引き継ぎ首相就任後に参拝を続ける姿勢の安倍を忌避し、反安倍の候補に集結するはずと小泉は読んだ。福田康夫が出馬すれば森もその仲間になる。結果的に「厳しい権力闘争」になるが、安倍が勝てば守旧派の敗北が確定する。それが小泉の靖国参拝の隠れた目的だった。
ところが守旧派は先手を打った。小泉路線の継承者としての安倍と戦うのではなく、取り込む戦略に転換した。具体的には派閥単位で安倍支持を打ち出し、見返りに主要ポストを確保する戦術。取りまとめ役は安倍と親しい森―中川秀直コンビだ。
まず森は7月21日に「森派の九割は安倍支持」と通告して福田を不出馬に追い込んだ。次に津島派を牛耳る青木と会談、意欲をみせる額賀福志郎を擁立しない方針で一致。一方、中川はこの間、古賀、二階、武部らと会談を重ねて山崎の不出馬を決め、古賀、二階を安倍支持表明に踏み切らせた。
8月13日のテレビ朝日の番組で、司会の田原総一朗におだてられ、森が安倍政権人事の構想を語ったのは、そうした自民党内取りまとめがうまくいったからだ。森や中川の政治感覚からすれば、政権獲得に協力したのだから安倍は当然、人事の要求をのむ。
青木と森の会談では、額賀不出馬の見返りを幹事長ポストとした可能性が濃厚だ。(後略)