記事(一部抜粋):2006年8月掲載

社会・文化

知られざる「水谷利権」の奥深さ

北朝鮮・原発・中部国際空港・福島県知事まで張り巡らす

「政商」を自称していた水谷建設元会長の水谷功容疑者が逮捕された。永田町では知らぬ者のない有名人だが、一般には無名で三重県桑名市を本拠にする売上高450億円内外の中堅ゼネコンでしかない。それだけに、北朝鮮から原発までに張り巡らされた「水谷利権」の奥深さに国民は驚かされたに違いない。
(中略)
 その脱税捜索の流れから水谷建設事件は、次の4ルートで捜査が進められていくことになりそうだ。
 第1に福島県知事ルート。佐藤栄佐久・福島県知事の実弟が経営する郡山三東スーツの旧本社用地を水谷建設は時価より高めで購入。その土地には検察が水谷建設と「一体」とみなしている前田建設工業が抵当権を設定、土地担保融資を行っていた。
 第2に北朝鮮ルート。北朝鮮支援のNGO(非政府組織)として知られるレインボーブリッヂに水谷建設は重機などの現物を供与、また事務員の渡航費用などを負担したうえに2億円の貸付も行っていた。
 第3に原発ルート。水谷功容疑者の「政界水先案内人」といわれているのが電力会社と永田町に太いパイプを有する日安建設の創業者だが、両社に前田建設工業を加えた3社は、福島原発残土処理事業を行い、その過程で日安建設に2億4000万円のリベートが発生している。
 第四に中部国際空港ルート。中部国際空港の造成工事に絡む土砂や砂利の搬入は、暴力団や地元政治家の思惑が絡んでもめたが、それを水谷建設は交通整理して収めた。
 それぞれのルートに政治家が複雑に絡む。第1のルートで佐藤知事との関係が問題になってくるのは当然として、第2の北朝鮮ルートにおける水谷建設の狙いは日朝国交回復後の支援事業と、良質な北朝鮮の川砂利で、この利権を握る自民党大物政治家との間に、水谷容疑者は太いパイプを有する。
 また第3のルートに登場する日安建設の創業者は政界フィクサーとして知られ、野党大物代議士とともに原発利権を握る。そして中部国際空港では、土砂搬入等の利権調整を歴代運輸相のなかの親しい大物政治家に委ね、かつ護岸工事を孫受け発注する際、北川正恭・元三重県知事の元秘書の会社に工事費を水増ししていた。
 水谷容疑者が、かくも幅広く政界に足場を築けたのはなぜか。
「公共工事には利権が伴うが、90年代初めのゼネコン疑獄以降、検察や公取委の捜査・調査が年々、厳しくなり、かつてのような裏ガネの金城湯池ではなくなってきた。それでも利権に与ろうとする政治家や業者の意欲は変わらない。そこに水谷氏は、泥を被れる調整役として登場、政治家の欲望を満たし、重宝されるようになった」(ゼネコン幹部)
 その際、ゼネコンの1次下請けであるサブコンという立場の水谷建設は使い勝手が良かった。サブコンは重機やブルドーザーなどの設備を用いて、ダム、原発、高速道路、空港など大型公共工事の造成、整地などの初期工事を担う。本格工事の前段階なので、地元との調整は欠かせず、そこには政治家や地権者などへの裏ガネが必要となる。
 こうしたサブコンが担う役割を「前捌き」というが、水谷建設はゼネコンと共同歩調で裏ガネを捻出、それをうまく配分することで「サブコン最大手」という今のポジションを築いてきた。そこには、本音を読み取るのに長けた水谷容疑者の「天性のカンが寄与していた」(水谷容疑者の知人)という。
「土建屋の倅に学問は要らない、という親父さんの教えで、中学を卒業するとすぐに土建業に飛び込み、兄たち(水谷容疑者は四男)とともに働いた。だから学はないし話が面白いわけでもないが、相手が何を求めているかを察知、カネや遊びをタイミングよく提供する天性の才能があった。むろん本人も遊び好き。それが仕事に生かされた」(同)
(中略)
 まごうことなき「政商」である。泥を被って相手の懐に入り込み、その欲望を満たしつつ己の利益を掌中にするという手法は、古臭くはあるが理に適っている。
 これまで水谷建設がその存在を知られながらも見逃されてきたのは、前述のような「備え」があったのに加え、三重県警クラスでは役不足、「特捜案件」にするには小粒という印象を拭えなかったためだろう。しかし、特捜部が本腰を入れた時の捜査は怖い。ひとたび端緒を開き、証拠と証言が得られれば、縦横に捜査の網を広げて行く。(後略)

 

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