6月末に訪米した首相小泉純一郎の周辺から、福田康夫の悪評が永田町に広がった。「ブッシュ政権は福田に失望している」というもので、霞が関の各省庁でも「福田政権はない」という観測が流れた。
福田は5月の訪米でブッシュ政権の幹部らと次々に会談した。米側は米政権と親密になるために訪米した次期首相候補を快く迎え入れた。しかし、副大統領のチェイニー、国務長官ライス、国防長官ラムズフェルドらとの会談はどれも「よもやま話」。ラムズフェルドは「時間のムダ」と会談をセットした国防副次官を叱り、ライスは「米国と中国は同じく重要」と語る福田を「首相として不適格」と評価した。小泉はプレスリー宅訪問に浮かれながらも、ブッシュ政権の福田への評価を抜け目なく「取材」して政官界へ流したのだ。
その直後の7月5日、北朝鮮がミサイルを発射。国連安保理で中国、ロシアを押し切っての全会一致の非難決議をブッシュ―小泉―安倍ラインが主導した。福田の悪評は、ブッシュと小泉が次期首相は安倍で合意したという見方に説得力を持たせる結果となった。自民党内は「よほどのことがない限り、ポスト小泉は安倍で決まり」という雰囲気だ。
波乱要因と目される事件が2つ尾を引いている。村上ファンドと巨額の裏ガネを隠した水谷建設の脱税事件。日銀総裁の福井俊彦を上回る金額を村上ファンドに投資してボロ儲けした大物政治家がいるとされるが、それは誰か。水谷建設の裏ガネはどの政治家の懐に吸い込まれたのか。いずれも東京地検がそのカギを握っている。とんでもない政治家の名前が出てくる可能性はあるが、いまのところ安倍を直撃するという情報はない。逆に水谷建設では古賀誠や亀井静香ら反小泉の面々がターゲットという噂がしきりだ。
そんな情勢から、ポスト小泉を安倍と争うつもりだった総裁候補とその周辺の動きが変化してきた。まずは福田。森派分裂を危惧する森喜朗らが「外相就任」を条件に安倍への協力を打診中。福田はまんざらでもないとされるものの、安倍が「外相以外のポストなら」と難色を示すのは確実で前途は不透明だ。
外相の麻生太郎は北朝鮮の一件で小泉、安倍とブッシュ政権のつながりの深さを実感。副総理格で外相留任を狙う構えをとり始めた。「安倍政権は来年夏の参院選挙で大敗する可能性が濃厚。そうなれば衆院解散に追い込まれ、短命に終わる」と側近に見通しを語っている。麻生はぎりぎりで出馬を撤回して安倍支持に転じるか、総裁選を戦う中で安倍への同調姿勢をみせるか思案中。ただ安倍は麻生を幹事長にして参院選の重荷を背負わせるかもしれない
ナンバー2ポストの幹事長にターゲットを絞るのは経産相の二階俊博と政調会長の中川秀直。二階は7月15日に開いた二階派の研修会で同派所属14人の結束を強調したうえで、日中関係の改善や靖国参拝など安倍と主張が異なる課題については「いちいち(総裁選の争点に)差し挟む必要はない」と明言してみせた。二階は袂を分かった民主党代表の小沢一郎を知り抜いており、安倍にない中国との太いパイプがある。(後略)