記事(一部抜粋):2006年7月掲載

連 載シリーズ

あって当然の「儲け過ぎ」批判

【岐路に立つ消費者金融】中川一博  

(前略)私は縁あって、業界随一のオーナー経営者だった武井保雄・武富士前会長に仕え、その言動を間近にうかがう立場に長年身をおいてきた。消費者金融のドンが手にした「富」の実態を直接見聞できる場にいたわけだ。それをここで逐一紹介するつもりはない。ただ、私自身も関わることになった山梨県都留市のゴルフ場についてのみ、おおまかな経緯と意見を述べておきたい。
 そのゴルフ場は、都心から中央道で約1時間、都留インターチェンジから3分という好立地にある「TAKE1カントリークラブ」。経営主体は武富士の連結子会社(出資比率100%)「テイクワン」である。
 武井氏の名を冠したこのゴルフ場の開発に、私は1989年から95年のコース完成まで一貫して関わった。アングラ勢力との折衝という「裏仕事」をその後、私が一手に担うことになるきっかけになったという意味で、個人的に非常に思い出深いプロジェクトである。
 それはともかく、企業が関連会社を通じて本業以外のビジネスを手がけることは、経営環境が激変する現代ではある意味必然であり、武富士がゴルフ場ビジネスに乗り出すことも、相応の意味と価値があると、当時の私は信じ込んでいた。ゴルフ場経営が軌道に乗れば、その収益で武富士全体の経営も安定するだろうし、ゴルフ場の仕事は、本体の従業員の退職後の受け皿になるという話も聞かされていた。プロジェクトが壁にぶつかることがあっても、会社と従業員の将来につながる仕事と自らに言い聞かせ、上司や同僚とともに懸命に汗を流したものである。
 ゴルフ場用地の買収を進めていた当時、ある地権者との交渉が暗礁に乗り上げたことがあった。カネで解決するしかないという結論になり、ある銀行に武富士担当者の名前で3口の個人口座をつくり、その口座を通して地権者に1億4500万円を裏ガネとして渡したこともあった。いま何かと話題の中央青山監査法人の前身である中央新光監査法人の会計士から、脱税幇助にあたると指摘されたが、結局うやむやのまま終わっている。
 このようなリスクを冒しながらゴルフ場は完成に漕ぎ着けるのだが、結論から言ってしまえば、TAKE1カントリーが、武富士という会社のためにプラスになったとは到底思えないのである。
 それはゴルフ場を所有・運営する株式会社テイクワンの資本金が315億円という途方もない金額であるという一事に言い尽くされている。これほど巨額の資本金を擁するゴルフ場会社は、世界的にもほとんど例がない。
 参考までに、2001年当時の日本のゴルフ場会社を資本金別に集計したデータによれば、会社総数1959社のうち、資本金5000万円未満が778社(40%)、5億円未満が950社(48%)、5億円以上が231社(12%)である。
 このように、ほとんどのゴルフ場経営会社は資本金が数千万円もしくは5億円未満だ。それはゴルフ場の建設資金が会員権販売によって、つまり会員の負担によって賄われるのが通例となっているからだ。
 対して、テイクワンは会員を一切募集せず、建設資金をすべて資本金によって用立てたがゆえに、資本金が異様に膨れ上がったのである。
 この莫大な資本投下に見合うだけの利益を、プレイ料金から稼ぎ出すことは、TAKE1カントリーの現状からすると、ほとんど不可能である。ゴルフ場ビジネスへの進出は、武富士の経営安定につながるどころか、むしろマイナス効果のほうが大きかったというのが、開発段階から関わった私の偽らざる認識だ。
 なぜ武富士は、いや武井前会長はこのような無謀な投資をあえてしたのか。それは武井氏本人の夢の実現のため、ステータス獲得のためであったとしか考えられない。
 武井氏がゴルフ場のオーナーになるのを悲願とし、それを実現するために可能な限りの手段を尽くしてきたことは、私を含め武井氏の周囲にいた関係者なら誰もが知っている事実である。そして、この武井氏のいわば道楽のためにつぎ込まれた資金は、元をただせば、経済的に余裕があるとはいえない消費者金融利用者から吸い上げた高利の利息収入なのである。
 武井氏は気が向くと、よく本社の社員らを日曜日の早朝、TAKE1カントリーに参集させてプレイを楽しんだ。もちろん1打いくらの賭けゴルフだ。その筋では有名な金融ブローカーW氏もよく参加したが、そのときはレートが1打10万円台に跳ね上がった。
 武井氏は昼前後までにラウンドを終えると、食事をとり、中央競馬のメーンレースに間に合うよう自宅へ急いだものだ。
 また前日の土曜からゴルフ場入りした場合には、夜はバカラなどのギャンブル大会で盛り上がった。まさにギャンブル漬けの日々だった。
 ところで、この世界最大級の資本金をつぎ込んだゴルフ場には、旧大蔵省の大物OBも深く関与していた。徳田博美・元銀行局長だ。
 徳田氏と武富士の関係は、武富士が株式を店頭公開する前の未公開株を、徳田氏が長女名義で大量に取得していた(しかも取得資金を武富士のグループ企業から借り入れていた)事実が発覚したことで、広く世間に知られることになった。この徳田氏の実弟である良二氏が、TAKE1カントリーの開発に、利害関係者として直接関わっていたのである。
 今も記憶に鮮明なのは、まだプロジェクトが緒についたばかりのころ、武井氏が自宅兼研修施設である「真正館」(東京・杉並区)に飾られたゴルフ場の模型を前に、熱い口調で徳田氏にゴルフ場にかける夢や構想を語っていた場面である。徳田氏も真剣な表情で武井氏の説明に聞き入り、協力を約束したものだ。当時の武井氏は、徳田氏に絶大な信頼をおいていた。
 実際、私は武井氏から「徳田先生は恩人だ」という言葉を何度も聞かされている。それは、貸金業規制法が策定されるにあたって、徳田氏が消費者金融業界の意向に沿う方向づけをしてくれたことに対する、感謝の念から出た言葉だったと思う。
 徳田氏は否定するだろうし、実際に徳田氏の尽力がどの程度効果があったかは確かめようがないのだが、同法によって、消費者金融業者が一定の要件さえ満たせばグレーゾーン金利での商売ができるとのお墨付きが得られたのは事実であり、武井氏が徳田氏を「恩人」と称していたのも、間違いない事実なのである(同法はその後改正を重ね、現在はグレーゾーン金利の撤廃が検討されている)。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】