記事(一部抜粋):2006年6月掲載

社会・文化

コンビニの聖域「FC加盟契約書」

セブン‐イレブン「旧契約書」の存在は何を意味するか

「平成14年(ワ)第2××××号 不当利得返還請求事件」
 4年前の10月に東京地方裁判所に提起された民事訴訟。その公判が進む中で提出されたある「証拠」が関係者の注目を集めている。
 この裁判の原告は、埼玉県でセブン‐イレブン店鋪を経営するA氏。被告はA氏とフランチャイズ(FC)契約を結んだセブン‐イレブン・ジャパン。注目すべき証拠とは、この裁判でセブン‐イレブン本部が平成15年(2003年)7月に乙13号証として提出した『旧契約書』である。
 A氏の訴えそのものは別段珍しいものではない。廃棄・品減りによって販売不能になった商品の原価からも本部がチャージ(ロイヤリティ)を徴収しているのは「現契約書」にない不当な会計処理によるものだとして、その返還を求めたもので、同様の訴訟は全国各地で提起されている。だが、証拠としてセブン‐イレブンの『旧契約書』が提出・採用されたのは、A氏のこの裁判だけだ。
(中略)
 実際、セブン‐イレブンの契約書を読んで即座にチャージ計算の方法を理解できる人は、ほとんどいないといっていいだろう(高裁判決もそう指摘した)。
 たとえば現契約書の第40条(セブン‐イレブン・チャージ)には、肝心要の粗利分配方法が次のように記されているだけだ。なお甲は本部、乙は加盟店を指す。
《乙は甲に対して、セブン‐イレブン店経営に関する対価として、各会計期間ごとに、その末日に、売上総利益(売上高から売上商品原価を差し引いたもの。)に対し、付属明細書(ニ)の第三項に定める率を乗じた額(以下、セブン‐イレブン・チャージという。)をオープンアカウントを通じて支払う》
 要するに、粗利=売上総利益を所定の割合に応じて分け合う、ということが書かれているわけだが、問題は、「売上総利益」「売上商品原価」という用語が正確に何を指しているのかが、契約書を読むかぎり必ずしも明確ではないことだ。
(中略)
 では冒頭の『旧契約書』に話を戻そう。A氏の裁判で証拠として出された『旧契約書』には、実は現契約書とは決定的に異なる部分がある。
「売上総利益」に所定の率を乗じた金額を加盟者が本部に支払う、としている点は現契約書と同じなのだが、その「売上総利益」という用語の定義が、旧契約書にはきちんと明記されているのだ。その「付属明細書E」にこうある。
《売上商品原価とは、会計期間のはじめにおける棚卸商品原価に、その会計期間中のすべての仕入れ原価(略)を加算し、そしてその会計期間の期末における棚卸商品原価を減算したものとする。ただし、棚卸増減は売上原価に含まないものとし、そのために必要な調整を行うものとする》《売上総利益とは、売上高合計から売上商品原価を差し引いたものをいう》
 旧契約書においては、まがりなりにもコンビニ粗利の算出方法が明記されていたのである。
 A氏の裁判で、セブン‐イレブン本部がこれを証拠として提出したのは、A氏が契約を結んだ時期が比較的古く、つまり旧契約書時代のことであり、A氏はコンビニ粗利の算出式をきちんと理解している(だからロスチャージ分の返還を主張できる立場にない)ことを立証する意図があったからだと思われる。
 だが、このことは逆に、ある重要な疑念を生じさせる。つまり、セブン‐イレブン本部はなぜ、コンビニ粗利の定義が明記された旧契約書を、わざわざ定義が曖昧な現契約書につくりかえたのか、ということである。
 当然、A氏側も訴訟では、その矛盾を厳しく追及した。
 セブン‐イレブンが契約書を改定したのは、同社発行の『終わりなきイノベーション』という冊子によると1979年である。それまで同社は、「契約書は重要なノウハウの結晶である」として、当事者の加盟店にすらそれを交付せず、自社の金庫に大切に保管していた。
 加盟店が契約書を見る場合には、わざわざ本部に出向き、本部社員立ち会いのもとで閲覧するしか方法がなく、謄写や外部に持ち出すことはもちろん、その内容を口外することまで禁じられていたという。
 セブン‐イレブンがノウハウの結晶である契約書をある種の「聖域」と位置づけたのは、同社が日本におけるコンビニFCビジネスのパイオニアであり、後続のライバルにそのノウハウを知られたくなかったというのが大きな理由だろう。だが同時に、同社のFCビジネスの本質を加盟店に察知されたくないという意図が、ひょっとしたら存在したのではないかとの疑念も一方では感じざるをえない。(後略)

 

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