記事(一部抜粋):2006年6月掲載

経 済

存在感増す「与謝野馨」

次期財務相に虎視眈々【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)
B 動きが激しいのは自民党の中だけではない。民主党も動いている。そして、これから注意しないといけないのは経済運営がどのように変わってくるのかということだ。ポスト小泉といわれるどの候補者も、今のところは「経済運営は踏襲」と言っている。だが、いざとなると変わってくるし、変えざるを得なくなる。
A 確かに、それを見越したように、いろいろ変化が起き始めている。象徴的なのは、金融分野での「竹中色」が希薄になってきたこと。昨年、与謝野馨氏が金融担当大臣に就任したころは、その前の伊藤達也大臣当時とそれほど変わらず、竹中政策の踏襲という雰囲気だった。ところがここにきて、竹中色の影が急速に薄くなり、「与謝野色」が目立ち始めた気がする。
B たとえばどんなふうに?
A 監査法人の中央青山に対する厳しい行政処分なんていうのは「与謝野色」の1つじゃないかな。中央青山の奥山章雄会長は竹中氏が金融担当大臣に就任した直後に作り上げた「竹中チーム」のメンバーだった。
B なるほど。そういえば竹中チームの中心人物だった木村剛氏の日本振興銀行に対する行政処分の話もぶり返してきたね。竹中氏はすでに木村氏との関係を切っているが、「余韻」は残っている。金融庁は一貫して、日本振興銀行への金融検査に着手しなかったが。
A そう。ところが今年になって金融検査に入った。
B 金融検査が終了しても、金融庁は何の動きも見せなかったが、ここにきて、日本振興銀行に問題点に対する報告義務を突きつけた。
C 佐藤隆文・監督局長が熱心に動いているようだね。
B 確かにそうなんだけど、ちょっと不思議な感じもする。佐藤氏は五味廣文・金融庁長官の下で動いてきた人物で、その五味氏は木村氏と盟友関係にある。その関係を無視して、日本振興銀行問題に厳しく対応することになるとは、ちょっと意外な気もした。
A 今の局面ならではの「事情」があると思うよ。確かに、五味氏と佐藤氏は同じ栄光学園の先輩、後輩の間柄で、佐藤氏は「五味金融庁」の中でもとくに目立って動いてきた。両者の関係は良好だといえる。五味氏は竹中大臣の影響力の下にいたからこそ長官に就任できたわけだが、佐藤氏の場合は逆に、竹中氏と良好な関係では立場が危うくなる。ポスト五味候補ナンバーワンではあっても、与謝野大臣に嫌われれば長官の芽はなくなるだろう。
B なにしろ与謝野大臣は、自民党の中でもアンチ竹中の筆頭格だからね。財務省や経済産業省の官僚たちと手を結んで政策を決めていく与謝野大臣と、アンチ官僚路線を走り続ける竹中大臣とは水と油の関係だ。実際、誰が見ても仲はよくない。
C そうした中で、佐藤氏が竹中金融行政の立役者である五味長官と意気投合したら、与謝野大臣は不愉快だろう。そのため佐藤氏としては、五味氏とは別の動き方をせざるを得ない。それはとりもなおさず、与謝野大臣の意向どおりの行政運営ということにつながる。
(中略)
A そういえば与謝野氏は最近、中川秀直自民党政調会長に接近しているらしいね。
B そうなんだ。中川氏はもともと竹中氏と組んでいた。アンチ竹中の与謝野氏が仲良くする相手ではないはずなんだが、その与謝野氏の後ろについているのが財務省主流派の主計族。財務省を無視するかのような財政改革を主張してきたのが中川氏だから、いよいよ不思議な光景になりつつある(笑)。
C 自民党総裁選が関連しているようだね。ここにきて、与謝野氏が総裁選への出馬に意欲を見せ始めているが、その与謝野氏を支持しているのが財務官僚だ。与謝野氏は総裁選出馬に必要な推薦人の15人を集めることはできるだろうが、出馬しても総裁選に勝てる見込みは皆無だ。それでも出馬するのはなぜか。そして勝つはずのない与謝野氏を財務官僚たちが後押ししているのなぜなのか。
A それは面白い話だね。答えを教えてよ。
C 自民党総裁選は、ポスト小泉の有力候補の安倍普三官房長官と、福田康夫元官房長官の一騎打ちと目されている。その福田氏は最近、メキメキと自民党内の支持を拡大させている。「安倍危うし」という声もちらつくようになった。そうした中で、与謝野氏が割って入って立候補したら、どういうことになると思う?
B 小泉改革路線に反対してきた議員たちが支持する福田票の一部が、与謝野氏に流れ込む。
C そう。福田支持の票は減って、安倍氏が有利になる。
A なるほど。与謝野氏は、本命の安倍氏に恩を売ることができるわけだ。
B 総裁選で恩を売ることができれば、安倍内閣誕生の際には重要閣僚のポストが得られる。これまでの経緯からすると、与謝野氏が望んでいるのは、省内にシンパが多い財務省と経産省。とくに財務大臣ポストには執着があるはずだ。
C 財務官僚にとっても、気心の知れた議員が大臣になってくれたほうが好都合だ。与謝野氏は、官僚の言うことをよく聞くことで知られている。(後略)

 

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