記事(一部抜粋):2006年6月掲載

政 治

小泉・ブッシュ会談で引導

「福田降ろし」のシナリオ【永田町25時】

 マスコミ各社の世論調査で福田康夫の支持率が上昇している。自民党内でもベテラン議員を軸に、反安倍包囲網を形成する準備が進んでいる。
 自民党総裁選は国会議員の405票と党員投票による地方票(都道府県別)300票で決まる。地方票では国民人気トップの安倍が勝ちそうだ。しかし国会議員票を合わせた合計で安倍が勝つとは限らない。しかも、第1回投票で過半数を獲得する議員がいなければ、決戦は国会議員だけの投票で上位2名が争う仕組み。もし反安倍包囲網が本当にできあがれば一転、福田が有利となる。
 前首相の森喜朗が安倍を温存し福田を森派の統一候補としたいのは、そうした情勢を熟知しているからだ。
 反安倍包囲網の動きは、山崎拓、加藤紘一、古賀誠、高村正彦ら森派以外のベテラン議員が中心だ。これに経産相の二階俊博、幹事長の武部勤らが連動し、党内第2勢力の津島派が加われば包囲網は完成する。政治経験の浅い福田は、森派が割れても派閥の半分がついて首相になれれば自分流の政権運営ができると思っている。だが森にすれば、それは自分以外のベテラン議員の復活と跋扈を意味する最悪の事態。ポスト小泉は森派の主導で決めなければならないと思っている。そのためにも安倍か福田、どちらかを不出馬とする必要がある。森が安倍側近を自称する参院議員の山本一太を呼びつけ、政治のイロハもわからないなら派閥から出て行けと叱るのは、他派閥主導で福田が次期首相となる最悪の事態を、山本が想定していないからだ。
 そうした政治状況の認識は首相の小泉純一郎も同じだ。だから5月3日、外遊先のガーナ・アクラ市で「本人が出たいというのを止める方法はない」と、森が狙う安倍、福田の一本化調整を批判した。小泉の真意は、安倍に出馬を断念させるのは無理だというところにある。ならば森は、最悪の事態を避けるために福田を担ぐのをやめるしかない。
 5月10日、山崎と加藤は森と会談し福田擁立を誘いかけた。だが森の返事は煮え切らなかった。12日、帝国ホテル内の料理屋で山崎は、同席した小泉に「福田の出馬は難しくなった」と森から得た感触を伝えた。森が福田でなく、安倍に一本化する方向を探り始めたのが分かったのだ。
 ちょうどそのころ、福田は訪米し、ライス国務長官、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官らブッシュ政権の首脳との会談を重ねていた。何のための訪米か。ブッシュ政権に次期首相として歓迎されるためだ。しかし首脳会談こそ実現したものの米国側の反応はいまひとつ。福田は終始不機嫌で、同行記者に会談内容を一切公表しなかった。
 小泉は6月末に訪米する。ブッシュは9月に退陣する小泉を国賓として招待、かつての中曽根や中国の胡錦濤にもしなかったホワイトハウスの正式晩餐会(ステート・ディナー)でもてなす。上下両院での演説も予定されている。この「米外交史上異例のもてなし」(外務省)の理由は、「ブッシュが小泉の後継者を小泉と話し合うため」(同)とみて間違いないだろう。ブッシュ政権はあと2年もあり、外交、経済、あらゆる面で日本の協力が不可欠だ。
 自民党内では、森が福田擁立を諦めれば福田降ろしの準備が整う。小泉は「もう一押し」をブッシュとの会談をテコとして行う腹に違いない。小泉とブッシュが「安倍で一致した」との情報が流れれば、反安倍包囲網は自然に解体される。福田は自ら出馬を諦めることになろう。森の態度の変化は、これを察知したからでもある。

 

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