社会・文化
竹島公取委に「チクリ」が続々
「談合潰し」本格化、調査権限の強化と「密告制度」を武器に
検察と公正取引委員会が一体となった徹底的な「談合潰し」が続いている。
国土交通省や日本道路公団で続いていた橋梁談合の摘発から始まって、成田国際空港と防衛施設庁で日常化していた「官製談合」を事件として仕上げ、3月に入ると国交省や水資源機構が発注する水門建設工事と、首都高速道路などが発注するトンネル用換気設備工事に独占禁止法違反の疑いがあるとして、公取委が関係業者を立ち入り検査、4月18日には大阪地検特捜部が大阪府阪南市発注のし尿処理施設建設工事をめぐり談合があったとして、強制捜査に着手した。
まさに怒涛の攻めである。公取委の刑事告発を受けて捜査するのが地検特捜部であるため、報道の際には検察主導の印象が強くなるが、「談合潰し」の主役は公取委であり、なかでも2002年7月に委員長に就任した竹島一彦氏の強い意思が、一連の立ち入り検査、刑事告発、強制捜査につながっていることは特筆すべきだろう。
公取委は「吠えない番犬」とヤユされることが多く、事実、何度、立ち入り検査の末に刑事罰を受け、課徴金を課せられても、業界は談合をやめることなく、一度は組織を解体しても、ゾンビのごとくに復活させ、談合を繰り返してきた。役人の天下りと一体となった官製談合、そして「みんなが飯の食える体制」という居心地の良さは、公取委の少々の制裁ではビクともせず、公取委の側にもどこか諦めの気持ちがあった。
「竹島公取委」は明らかに違う。狙っているのは健全なる競争社会の確立のための談合の根絶であり、日本経団連との戦いの果てに獲得した、今年1月から施行の「改正独禁法」という武器が、談合の終焉を予感させる。
公取委関係者が解説する。
「役所はリーダーで変わる。これまでの委員長に意欲がなかったとはいわないが、竹島委員長にはどんな抵抗にも立ち向かう気概があり、それが独禁法改正をもたらし、部下のやる気を引き出している。このまま手を緩めずに談合組織の解体を進めれば、不滅と思われた談合は終わる。その見通しは立った」
強気だが、その萌芽はある。改正独禁法で採用された課徴金減免制度を利用、仲間を裏切った業者の内部告発で水門建設工事の立ち入り検査が行われたことだ。談合という村社会の論理は「チクリ」を許さず、発覚すれば「村八分」となる。それを逆手に取った「密告制度」に応じた数多くの業者がいたという事実が、談合の終焉を伝える。
改正独禁法は、?公取委への強制調査権の付与、?課徴金減免制度の採用、?課徴金の強化――の3つを柱にしていた。これまでのような任意調査ではなく、国税や証券取引等監視委員会に与えられている強制調査権を公取委にも持たせ、「私は談合をしています」と、自白した業者の課徴金を減免、その一方、談合を繰り返す業者の課徴金を重くすることで、談合を「割の合わない仕組み」にした。
いずれも業者にとってはきつい改正で、だから日本経団連などは政界に強力な根回しを行い、政治献金を復活させてまで独禁法の強化を阻もうとしたのだが、竹島公取委は押し戻して法改正を勝ち取った。なかでも「談合風土」を変えるという意味で効果的なのが課徴金減免制度だった。
これは公取委作成のフォーマットにしたがって、談合の事実を告発するものである。1番最初の告発者には課徴金が100%減免され、2番目は50%、3番目は30%の減免比率で4番目以降はない。もちろん告発しても公取委が調査に乗り出すかどうかは不明だから、その意思のある業者は、「どうせなら1番を狙って」と、早めに自首申告した。公取委が告発の受付をFAXにしたのは、「順番」の確定のためである。
公取委担当の全国紙記者が、次のように内幕を明かす。
「改正独禁法の施行は今年1月4日からでしたが、公取委には各業者が『権利取り』を狙っていっせいに告発してくるんじゃないかという自信があった。だからFAXにしたんです。FAXには何分何秒まで印字されるから、公正さが保たれる。実際、かなりの業者が自首申告してきたみたいです。どんな業界から何社がFAXを入れたのか知りたかったのですが、公取委は公表しなかった」
公表しなくとも、かなり詳細な告発が多数寄せられたのは想像に難くない。わずか3カ月後の3月28日、課徴金減免制度利用の告発に基づいて石川島播磨重工業、三菱重工業、日立造船など大手メーカー二十数社が、水門建設工事で談合を繰り返していたとして立ち入り検査。その2日後の30日には、同じ制度利用の告発により、石川島播磨重工業、三菱重工業、荏原製作所など六社が、トンネル用換気設備工事で談合していたとして立ち入り検査を行った。
フォーマットにしたがったFAXによる告発といっても、「担当者レベルの権利取り」といった気軽なものではない。取締役会の決議を経た「会社決定」である。つまり会社として業界を裏切るわけで、公取委としても立ち入り検査、あるいは強制調査を経て、課徴金納付の決定を下すまでの間の情報漏洩にはかなり気を配り、自らが公表しないのはもちろん、告発業者が第三者に漏らすことも禁じている。
とはいえ「業務屋」と呼ばれる談合担当が、長年、酒食を共にしながら築いてきた村社会のこと、「裏切り行為」はすぐに露見する。事実、制度導入の第1号となった水門談合でも、ある大手重機・造船メーカーの告発であるのは業界周知の事実である。(後略)