記事(一部抜粋):2006年4月掲載

経 済

「量的緩和解除」で復権?

バブルに怯えた福井・日銀【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)B 笑い話といえば、量的緩和の解除決定後の民間銀行の動きもそうだ。口裏を合わせたように、定期預金金利の引き上げを発表している。しかし、実際にはゼロ金利は継続中だ。それだったら、これまでのゼロ金利の下でも定期預金金利を引き上げることはできたはずだ。
C 住宅ローンなどローン金利の引き上げが今後避けられない中で、それへの批判をかわすために、預金金利のほうを名目的に先に引き上げたということだろう。
A 量的緩和政策の解除は結局、ローン金利引き上げで庶民を苦しめるだけ、という批判はこれから当然起こるだろう。定期預金金利の引き上げを単純に喜んでいるわけにはいかないよ。後からやってくるローン金利引き上げを警戒しないと。
B ゼロ金利政策、そして量的緩和政策が家計部門から企業部門への所得移転を誘導したのは間違いない。日銀はその状況を理由にして、量的緩和政策解除の正当性を世の中に訴えた。しかしそれは我田引水というものだ。なぜなら所得移転はゼロ金利によって引き起こされている。ゼロ金利をとにかくやめない限り、所得移転は続く。ゼロ金利を継続しておきながら、所得移転が問題なので量的緩和を解除したという理屈は通らない。
C しかし、ゼロ金利を解除すれば、今度は財務省などが猛反発する。長期金利が上昇するからだ。長期金利の上昇は国債価格の下落をもたらすから、綱渡りの国債発行に支障をきたすだろう。
B そう。だからゼロ金利の解除は財務省が許さない。だから量的緩和は解除しても、ゼロ金利は続けるという話になる。
A つまり、福井総裁が語ったような「今後は量の政策ではない。金利操作の政策に戻る」という説明にはほとんど説得力がないということだ。国民は福井総裁の能弁に騙されかかっているともいえる。
C 日銀はゼロ金利、量的緩和に続いて、国民に対する背信行為を働くつもりだろうか。じつに不愉快な話だね。
B 日銀は「量的緩和には戻らない」と総裁自らが断言した。ということは今後、日銀当座預金残高が再び上昇することはないと言ったのと同じだ。一度でも日銀当座預金残高が飛び跳ねたら、「日銀は量的緩和解除に失敗」というレッテルを貼られるわけだ。
C いずれにしても日銀は今回、随分と拙劣な動きをしたと思うな。
A それだけ余裕を失っていたということだろう。記者会見で、福井総裁は余裕しゃくしゃくの表情をみせていたが、あれは表面だけで、内心は焦りまくっていたはずだ。なぜなら、消費者物価などより株や不動産などの資産価格の上昇が激しくなっているからだ。実は、今回の量的緩和政策解除の裏側にあるのは、デフレの克服などではなくて、資産バブルへの恐怖だ。日銀の内部には、その怯えが拡大していた。
B 同感だ。闇雲に量的緩和を拡大させて、デフレどころか資産バブルをつくり上げたとあっては、福井氏は日銀史上最低の総裁という烙印を押されかねない。その可能性が日々高まっていたとすれば焦るだろう。日銀のホンネはそこにあったと思うね。だからこそ「ゼロ金利は継続、量的緩和政策は解除」などという決着になった。
C 資産バブルは福井日銀が煽ったといっても過言ではない。政府からの批判を防ぐために量的緩和政策を拡大させたのは日銀自身だからね。要するに自己保身のために緩和政策を拡大した。
A しかも財務省との密約があるから、今後もゼロ金利は継続するしかない。場合によっては、長期国債の買い切り額も増やしかねないよ。
B そういう立場をきれいに隠して、いかにも一般庶民のための政策です、という言い方を日銀はしている。しかし、いま国際金融市場では、量的緩和の解除の影響からドルが下落したり、米国の長期金利が上昇するなどの不安定な動きが強まっている。(後略)

 

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