経 済
限界みえたFC商法
止まらない加盟店の反乱【業界最新地図--コンビニ業界編】
(前略)しかし、ファミリーマート本部が斉藤氏を目の敵にし、一方的に契約解除を強行したのは、それだけが理由ではない。本部にとって、それを認めたらビジネスモデル(加盟店にすべてのリスクを負わせることで確実にロイヤリティ収入を得る)そのものが瓦解してしまうほどの「裏ワザ」を、斉藤氏が自身の店舗で実行に移したことが、本部の逆鱗に触れたのだ。
その裏ワザは、業界内で「1円廃棄」と呼ばれるもので、やり方は次の通り。
1、消費期限が過ぎて廃棄処分にせざるを得ない弁当類を、期限切れとなる寸前に1円に値下げする。2、それを加盟店オーナー自身が1円で購入する。3、購入した弁当類は自分で食べたりせずにその場で確実に廃棄する――。
実は、この作業を行うと加盟店の経営は劇的に改善し、その分、本部が加盟店から徴収するロイヤリティが減少するのである。
コンビニのFCシステムは、加盟店が得た「粗利」を、本部と加盟店が規定の割合に応じて分け合うことを基本としている。契約書にもそう明記されている。それを額面通りに読めば、加盟店の粗利が増えればその分、本部が受け取るロイヤリティも増えるので、両者は共存共栄の関係にあることになる。
だが現実は違う。コンビニ会計では、「粗利」の概念が一般の会計原則からかけ離れたものに変えられているからだ。
「コンビニ粗利」と一般の粗利の違いを理解するには、弁当などが消費期限切れで廃棄されるときに、それが「コンビニ粗利」にどう反映されるかをみればわかりやすい。
一般に粗利とは、売り上げから原価を引いたものとして表されるが、コンビニ会計は、商品が廃棄処分になると、その分が原価から差し引かれるようにプログラムされている。
たとえば売価100円、原価70円のおにぎりを10個仕入れたとする。全部売り切れば、
(100円×10個)―(70円×10個)=300円
一般会計でもコンビニ会計でも粗利は300円になる。ところが仮に3個のおにぎりが売れ残って廃棄されたらどうなるか。一般の粗利は、
(100円×7個)―(70円×10個)=〇円
となるが、コンビニ会計ではこうなる。
(100円×7個)―{(70円×10個)―(70円×3個)}=210円
なんと210円の粗利が出たことに、会計上はなるのである。
そして本部は、この210円という「コンビニ粗利」から、ロイヤリティとして(チャージ率を50%とした場合)105円を徴収してしまうのである。
加盟店にも105円が「利益」として残るが、廃棄された3個のおにぎりの原価(210円)が、別途、加盟店の営業費用に計上されるため、加盟店の損益は差し引き105円のマイナスとなる。
一般の会計原則に基づけば、おにぎりが3個廃棄されたら粗利はゼロ。したがって本部が得られるロイヤリティもゼロで、加盟店の収支もトントン。しかしコンビニ会計では、本部が105円の利益を得るのに対し、加盟店105円の損失を被ることになる。
これは本部が、加盟店の経営圧迫要因である廃棄ロス(この場合は210円)から、ロイヤリティ(210円の50%の105円)を吸い上げているということにほかならない。本部は廃棄が出ようが出まいが確実にロイヤリティを徴収できるのに対し、加盟店は廃棄のリスクをすべて背負いこまされているのだ。
斉藤氏が実行した「1円廃棄」は、この加盟店のみが負わされている廃棄リスクをヘッジするためのテクニックだ。
前述の10個のおにぎりが3個売れ残ったケースで、1円廃棄を実行したとしよう。その際の「コンビニ粗利」は次のように算出される。
{(100円×7個)+(1円×3個)}―(70円×10個)=3円
なんと一般粗利(〇円)とほとんど変わらなくなるのだ。
加盟店は、本部に徴収されるロイヤリティを1円50銭に抑えることができ、自身の損失も1円50銭にとどめることができる。つまりコンビニ会計の罠から脱け出て一般会計に近づくことが、1円廃棄によって可能になる。
「この方法は、聞くところによるとセブン‐イレブン・ジャパンの九州地区の加盟店の方が考え出したもので、今では複数のセブン‐イレブン加盟店が実行に移しているそうです。ファミリーマートでこれをやったのは私が最初ですが、実施にあたっては、事前に公正取引委員会に相談し、違法ではないことを確認しています」(斉藤氏)
そもそもFC加盟店は本部とは別法人の独立した経営体であり、自分が売る商品の価格を自主的に決める権利を有している。ファミリーマートの契約書にもそう記されているし、実際、各店舗にあるストコンには、加盟店の裁量で売価を変更できる機能が備わっている。
1円に値下げした弁当を一般の顧客に販売したり、あるいは加盟店オーナー自身が購入後に食べたりすれば、「不当廉売」にあたる可能性が出てくるが、確実に廃棄するのであれば問題ないというのが公取委の見解だという。だとすれば1円廃棄は加盟店にとって当然の権利、有効な経営テクニックということになる。(後略)