自民党の最大派閥、森派の領袖の座を森喜朗が福田康夫に譲ろうとしている。今年1月には手始めとして会長代行への就任を要請した。福田が固辞して先延ばしになったが、4月ごろには実現するかもしれない。
自民党の常識としては、派閥の会長代行が総裁選に立候補すれば会長は応援しなければならない。つまり普通であれば会長代行への就任要請は総裁選での支持確約と同じだ。しかし、政界の駆け引きは一筋縄ではいかない。福田が会長代行を固辞しているのは、総裁選への動きを制約されたくないからだ。
ポスト小泉をめぐって会長である森の役目は、福田と官房長官の安倍晋三に割れる派内を一本化することだ。その森が、早々と福田を会長代行にしようと動いている
現在の自民党内は議員の数でみるかぎり、安倍より福田支持のほうが多い。ただ、首相の小泉純一郎の意中の後継者は安倍であり、党員の人気も安倍が圧倒的だ。森はぎりぎりの段階で「派閥の分裂回避」を口実に福田に総裁選出馬断念を迫るかもしれない。会長代行は会長の支持に従わなければならない。
森の真意はどこにあるのか。胸中をうかがい知る立場にいるベテラン記者は次のように解説する。
「いずれにしても森は総裁選の後に会長を譲るつもりだ。安倍が首相なら会長は福田、福田が首相なら会長は安倍。会長ポストを使って派閥の一本化を図る戦略だ。目的は総裁選後の森派の影響力維持にある」
考えてみれば、森が小泉やその側近となった政調会長の中川秀直と総裁選で真っ向から対立するわけではない。そんなことをすれば自らの存在意義を損なうのが確実だ。森の狙いはあくまで派閥の影響力確保にある。
ではなぜ、森は会長の座を譲ってまで影響力を保持しようとするのか。先のベテラン記者はいう。
「ずばり、衆院議長狙いです」
わずか一年あまりで首相の座を追われた森は、政治家として不完全燃焼だった。もう1つの政治家の最高ポストである衆院議長に就任し、その鬱憤を晴らそうとしているという。聖域に近い議長なら、マスコミや世論に攻撃されることもない。
しかし明治時代ならいざしらず、戦後は三権の長のうち2つを歴任しようという政治家はいなかった。あまりに欲張りすぎではないか、嫉妬深い議員でなくてもそう思う。ところが衆院の状況をよくみると、森がそうした野望を抱いても不自然でないことがよく分かる。(後略)