記事(一部抜粋):2006年2月掲載

経 済

電子マネーに活路を探る

カード業界「生き残り競争」【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)C 背景にあるのは経営の行き詰まりだ。銀行系カード会社は、どういうつもりか知らないが、自分たちにはステイタスがあると思い込んでいた。だからこそ、所得階層でいえば中流以上向けにカードを発行し続けてきたわけだ。しかし実際のカード利用者はそんな階層ばかりではない。むしろ所得の低い階層の方が頻繁に使っている。そのため銀行系カードは、利用されずに財布の中にしまわれているだけのカードになってしまった。
B しかも、クレジットカードというと、主にショッピングに利用されるわけだが、そのショッピングではカード会社は儲からないという構造になってしまった。カード会社が過当競争に走った結果、加盟店手数料などをダンピングしたからだ。そこで、各社は利益を上げるために、ショッピングではなくキャッシングに力を入れるようになった。要するにサラ金と同じだ。そうなると銀行系カードはいよいよ弱い。一定以上の所得階層はサラ金を利用しない。つまりキャッシングもしない。その結果、銀行系カード会社は気位は高いけど収益力は乏しいという体質が染みついてしまった。
A しかも最近は、JR東日本が参入し、「スイカ」による電子マネービジネスを拡大したりと、敵が多くなってきた。
C たしかにJR東日本はカードビジネスに熱心だ。スイカの導入で改札が完全に無人化できただけでも大変なコスト削減だろう。スイカの電子マネー利用、つまりスイカで買い物をすることがあまりなくても、コスト削減という果実だけは確保している。
B しかし、スイカによるコスト削減は顧客に還元されていない。改札が無人化されたといっても、外国のように電車が24時間走り続けるわけでもないし、運賃も安くはならない。やはり、旧国鉄時代の親方日の丸体質が残っていると言わざるを得ないね。
A スイカの電子マネーに対抗して、JCB、三井住友カード、UFJニコスも電子マネーカードの発行に踏み切ったね。この競争はなかなか面白い。
C スイカは事前にカードの中におカネを装填するプリペイド式で、その分だけショッピングなどができるようになっているが、JCBなどが導入した電子マネーはそうではない。クレジットカードと同様、ショッピング代金は1カ月後に銀行口座から引き落とされる。この違いは大きいね。
B 既存のカード会社は、カード加入者の信用情報を蓄積しているから、既存のカード保有者に対して電子マネーを発行する際の審査能力がある。だから、後払いシステムであっても、支払い不能で損失が拡大するというリスクを防止できるわけだ。しかし、JR東日本にはまだそれだけのノウハウがないから、後払い方式はできない。しかも、JRの場合、根本は定期券のカード化だ。定期券を後払い方式にして、電車にタダ乗りされたら、コアビジネスの土台が崩れてしまう。JRのカードビジネスの限界はここにあるね。
C 既存勢力の中で電子マネーに最も積極的なのが三井住友カードだ。同社はドコモの携帯電話を使った方式を採用している。つまり、実質的には三井住友カードの電子マネーというよりも、NTTドコモの電子マネーといったほうが適切だ。この電子マネーを利用してもらうためには、加盟店にカード情報を読み取る端末機を設置する必要がある。三井住友カードは端末機の設置を積極的にやっているが、同社は新規に端末機を設置するのではなく、既存のクレジットカード利用のために設置していた端末機と、電子マネーも利用できる端末機を置き換えているにすぎない。これが何を意味するのか。三井住友カードは文字通り、NTTドコモの関連会社になったということではないか。
B JCBにしろ、三井住友カードにしろ、あるいはUFJニコスにしろ、なぜ電子マネーに積極的なのかといえば、既存のクレジットカードが伸びないからだ。もっと正確にいえば、利益が出ないからだ。VISAにしても、マスターにしても、クレジットカードの既存ブランドは競争相手が多すぎて儲からなくなってしまった。手数料をダンピングしているのだから自業自得だが、これはかなり深刻な問題だ。そこで、競争が少ない新たなブランドとして電子マネーを導入したわけだ。
A しかも、消費者金融会社ばかりが標的にされているけど、貸金業規制法と出資法の上限金利の格差、つまり、貸出上限金利のグレーゾーン問題はクレジットカード会社にも当てはまる。キャッシングのレートは、グレーゾーン内の年利20%台というところがザラだ。
C しかし、いずれグレーゾーンは解消されるだろう。というか、その前に貸金業規制法の上限金利(現在、29.2%)は引き下げられる。そうなると、収益源のキャッシングもそれほど儲からなくなる。(後略)

 

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