官房長官の安倍晋三が今年9月の自民党総裁選で後継首相に就任した場合、現首相秘書官の飯島勲が当面続投するのではないか――。昨年の衆院選で郵政民営化に反対する議員の選挙区に刺客を送り込む中心的役割を演じ、官庁人事に小泉純一郎の虎の威を借りて介入するなど専横をきわめる飯島。その続投説に永田町や霞が関では警戒感が広がっている。
政務の首相秘書官は普通なら新首相の古手の秘書か側近が就任するもので、過去に前任の秘書官が続投した例はない。だが、飯島の続投説にはそれなりの信憑性がある。第1の理由は、小泉が院政を敷いて安倍政権をコントロールするのに好都合。さらに安倍の周辺に人材が不足し、政権を維持し軌道に乗せるまでは飯島のような裏の力が必要だからだ。
そもそも普通ならありえない飯島続投説が浮上したのは、小泉があまりに早々と安倍後継指名を匂わせたためだ。昨年末に「国民の支持」を後継首相の条件にあげたのに続き、1月のトルコ外遊の記者会見では「国民参加型の総裁選がよい」としたうえで、自分が議員との1人として誰に投票するかを事前に明らかにすると語った。
「国民参加型」の事前投票をすれば人気ダントツの安倍の1位はまず動かない。そのうえ小泉が支持すれば結果は明らだ。小泉はなぜ、この段階でそんな発言をするのか。そこから小泉が早々と安倍の後継を規定路線とし、その恩義と引き換えに飯島を引き続き秘書官として使うよう安倍に命じる、という憶測が生まれた。飯島が秘書官に残れば、安倍の動きは小泉にすべて分かる。安倍が改革路線を後退させるのを心配する小泉としては安心できる状況が生まれる。
国民人気ナンバーワンの安倍だが、その政治力には不安がある。本人の政治家としてのキャリアの浅さも一因だが、周辺に政権運営を補佐するような人材がいない。取り巻きは若手のゴマスリ議員がほとんどで、国会運営をめぐるベテラン議員や政策をめぐる官僚との駆け引きで首相としての主導権を発揮するのは難しい。現に官房長官としても秘書官を務める人材がおらず、副官房長官時代に使った内閣府の若手官僚を秘書官にした。「小泉の後ろ盾が外れれば、森喜朗や中川秀直ら森派の幹部に鼻ヅラを引きずり回される」(森派幹部)というのが大方の見方だ。
飯島の裏方としての辣腕は安倍にとって確かに捨て難い魅力だ。自民党政調会長の中川は昨年初めに十数年来にわたり金庫番を務めた女性秘書が辞め窮地に陥った。テレビ東京記者から秘書に転職した長男と対立したためで、女性秘書がさまざまな秘密を暴露するに違いないとされたからだ。森内閣時代に女性問題で官房長官辞任に追い込まれた中川は、その後も川崎のソープランド通いを週刊誌にスクープされるなどご難続き。政治家としてもう終わりかとみられたが、その頃から長年仕えた兄貴分の森喜朗から小泉寄りに重心を移すことでスキャンダル地獄から抜け出た。その陰に飯島の辣腕があったという見方を否定する永田町関係者はほとんどいない。(後略)