「際限なく拡がる事件だ。新東京国際空港公団(現成田国際空港会社)から始まって、防衛施設庁、文部科学省へと続く。来年の春先までは捜査することになる」
こう検察関係者が不気味な予言をする談合事件が、11月17日の重電メーカー各社の家宅捜索で幕を開けた。談合を疑われている三菱電機、東芝、富士電機システムズ、明電舎、日新電機、日立製作所の6社は、空港公団向けに談合組織を形成していたわけではない。逆に談合組織に空港公団を引っ張りこんでいた。他の公団や省庁でも同じ。だから「際限なく拡がる」のである。
しかも談合メンバーは懲りない。
10年前、今回のメンバーに中堅3社を加えた重電メーカー9社が、日本下水道事業団発注工事をめぐって談合を繰り返していたとして、独占禁止法違反の罪で起訴され、1996年5月、東京高裁で有罪判決を受けて罪が確定したことがある。当時のメンバーは、「ドラフト会議」と呼ばれる会議で受注予定業者を決め、事業団に落札金額を教えてもらい、高値落札を恒常化させていた。
今回は、空港公団の作成した「配分表」と呼ばれる落札予定会社リストを入手、予定価格を漏らしてもらうことで、談合を成立させていた。空港公団主導の「官製談合」ではあるが、両者はメーカー側が天下りを受け入れることによって緊密になっており、「業」のシステムに「官」を巻き込むという構図に変わりはない。
こうして長年にわたって「みんなで飯の食える体制」を維持してきたメーカー各社を、透明な入札制度で競わせるのは容易ではない。ただ、時代は移り、システムも制度も談合にかかわる担当者の意識も、徐々に変化してきた。根絶は難しくとも、談合を支える素地は消えつつある。
たとえば「政」の役割である。
自民党政治家の育成過程は、「族議員」として鍛えるところから始まる。衆参の委員会か部会に所属、その与えられた官庁で官僚の助けを借りて政策に強くなり、「族のボス」と呼ばれるベテラン議員に可愛がられて引き立てられ、当選回数を重ねながら、「官」と「業」に睨みを効かせる存在となる。
こうして「族議員」として1人前になった政治家が、政治資金的にも恵まれて、閣僚ポストに就き、自らの存在価値を上げ、やがて派閥領袖となって、首相を狙うのが、戦後、営々と続いた「自民党政治」だった。その集大成が田中角栄元首相であり、それを受け継いだのが竹下登、小渕恵三、橋本龍太郎といった経世会出身首相だった。
その自民党政治をぶち壊したのが小泉純一郎首相である。「族のデパート」といわれた旧経世会は、政策決定過程に「族議員」を関与させない「小泉流」の手法と、規制緩和の流れのなかでガタガタとなり、津島派となった今は、かつての「栄光」がウソのように弱体化、その凋落に合わせて「族議員」という存在自体に意味がなくなってきた。
今回の重電メーカー談合でもそれは明らかだ。
談合は「政官業」のトライアングルで成り立つ。「族のボス」が各省庁にいて力をふるった頃は、「官」も「業」もボスの顔色をうかがい、どうしても受注したいとなれば、ボスを抱き込むことで横車を押し、それが時に贈収賄事件につながった。
ところが今回は、そんな強力な「政」がいない。代わって登場しているのが政治家の秘書である。防衛施設庁発注工事で談合を主導していたとして、郵政相や防衛政務次官を務めた元衆院議員の元秘書が代表を務めるコンサルタント会社が、地検特捜部の家宅捜索を受けている。文部科学省ルートでも、「文教族」といわれる元首相の私設秘書の役割が注目されている。
この場合の「政」は、秘書ビジネスに過ぎず、政治家が直接、関与していることはない。コンサルタント会社を経営する元秘書が、そのカラクリを明かす。(後略)