コンビニ業界が固唾をのんで注視する裁判の判決が10月31日、東京地裁で言い渡される。セブン‐イレブン・ジャパンの元FC加盟店が、同本部を相手に、仕入れ先が発行した領収書、請求書を開示するよう求めた訴訟。判決日は当初8月27日に予定されていたが、これまで2度にわたって延期され、今回は3度目の正直。裁判所の判断いかんで、コンビニ業界に激震が走るといわれる注目の裁判だ。
本誌の読者は先刻ご承知のとおり、コンビニFCをめぐっては、ロイヤルティを不当に徴収されたとして加盟店がその返還を求めた訴訟(いわゆるロスチャージ訴訟)が、これまでいくつも起こされている。しかし今回判決が言い渡される訴訟は、それとはやや趣を異にする。
自分の店の経営実態を把握するうえで必要な、自店に関する領収書と請求書を見せてください――というのが原告(神奈川県下でセブン‐イレブン店舗を経営していた伊藤洋氏ら)の要求だ。高額な金員を請求しているわけではない。自立した一経営者として当然の権利を求めただけだ。しかしこの訴訟、その要求があまりに単純・素朴であるがゆえに、かえってコンビニFCビジネスの欺瞞性を際立たせる効果がある。
なぜ、商売の基本中の基本である領収書、請求書が、当事者である加盟店に開示されないのか。なぜ、本部はそれを隠すのか。開示すると何かマズいことでもあるのか。世間一般の常識に照らしても、開示要求を裁判所は認めてくれるはずだと原告側は自信をみせる。
もちろん東京地裁がどういう判決を下すかは予断を許さないが、仮に開示を命じる判決が出て、それが確定した場合(セブンは間違いなく上告するだろうが)、セブン‐イレブン商法の恥部がいよいよ白日の下にさらされるのではないか、と見る向きが実は少なくない。
「恥部」とは、加盟店が納入業者に支払う仕入れ代金をセブン本部がピンハネしているのではないかという疑惑のことで、業界内では以前から、まことしやかな噂として囁かれてきた。万が一この噂が本当なら、たしかにセブン‐イレブン本部が領収書と請求書の開示を頑なに拒んできた理由の説明にはなる。
コンビニの店舗には種々雑多な商品が並んでいる。これらの商品は、ベンダーとよばれる数十にのぼる納入業者が、加盟店からの発注を受けて直接、納入したものである。
ベンダーは商品を納入する際、発注どおり商品を納入したことを示す納入伝票を加盟店に手渡し、加盟店はそれと実際に届いた商品を照らし合わせて、間違いがなければ伝票に認め印を押す。
加盟店は、本部が提供するコンピュータシステムを通じて商品を発注している。ただし本部は卸業者ではなく、店舗運営のノウハウを教え、システムを供与する代わりにロイヤルティを受け取るコンサルタント会社という立場である。つまり商品の受発注は、加盟店とベンダーの間で行われており、当然、仕入れ代金も加盟店がベンダーに直接支払う形になる。
しかし加盟店は日々の売上金を全額、本部に送金しているため、実際には、本部が加盟店を代行する形で仕入れ代金を各ベンダーに支払っている。その際、当然のことながら、ベンダーは本部に対し、代金を受け取った証しとして領収書を発行しているはず(その前に請求書も発行しているはず)である。
本来この領収書と請求書は、ベンダーが加盟店に発行すべきものだが、なぜか本部はこれを加盟店に渡さない。本部が加盟店に渡すのは、月ごとに集計される損益計算書であり、そこには加盟店が本部を通じて各ベンダーに支払った仕入れ代金の「総額」のみが記されている。
つまり加盟店が知ることができるのは、その月にどの商品を何個発注したかということ、それら商品の仕入れ代金が合計でいくらになるのかということだけで、たとえばAというペットボトルドリンクの1個あたりの仕入れ代金がいくらなのか、Bというベンダーにいつ、いくら支払ったのかといったことは、一切知ることができないのである。(後略)